広島の少年と高知の少女

近代将棋2000年7月号、島井咲緒里女流2級(当時)の「毎日はシャボン玉」より。

 旅、と言えば、最近思い出す事があります。皆さんにも一緒にタイムマシンに乗ってもらいましょう。

時は遡り、それは10年前の春だった。高知の小学生大会で活躍中の咲緒里少女は、母に連れられ広島へと乗り込んだ。何故広島かって? それはほどよく高知から近く、将棋が盛んだったからでしょう。だけどもしかすると、母がもみじまんじゅう(広島の名物ね!)を食べたかっただけかも(ちなみに私は大好き)。やはり母心にて、井の中の蛙に大海を見せたかったのだろう。道場に着くと私は威勢よくその門を叩きこう叫んだ。「たのもー!!」。

私が覚えているのは二局というよりも二人の対戦相手だった。

一人はくりくりした大きな眼が印象的な男の子。可愛い顔してあの子わりとやるもんだね~♪とは思わないが、同い歳なのに強いなぁ、と思った。少女は、この子は将来プロになる! と鋭く眼を光らせた!?

もう一人のきつねのように細い眼の男の子(失礼)の将棋は、私がかなり押していたのを逆転された気がする。少女は、一つ年下なのになかなかやるじゃない。この子も大物になるわ! 楽しみねっ、うふふ、と思った。(そんなわけもない)。

当時負けん気一杯の子供だった私は、よく負けては泣いていたんです。母の話によると、アイスクリームを買い与えると機嫌が直ったらしい。うんうん、単純な子供だ。負けて泣くのは大人も子供も変わらないなぁ、と思う。大人はアイスじゃ癒されないけど(笑)。でも広島の桜の美しさだけは子供心にも鮮烈に映りました。それだけは今でもありありと思い出されるんだけど、あの強い二人の男の子は今頃どうしているのかなぁ?

ところが、ところが、できちゃったんです。えっ? 赤ちゃんじゃないですよー なんと再会しちゃいました私達。ほんと10年ぶりです。

先日とある場末のバー…ではなくて、西日暮里の道場で。眼の細い子は奨励会三段の片上君だったのです。忘れられているだろうなぁ、と思ってたら、「やあ、覚えてる?」とは…もうビックリです。「強かったよねぇ、うん、あの時は強かった!」とか言って、おとなしい子供の時の印象とは違ってよくしゃべるのにもビックリ(笑)。ホント懐かしかった。

そうそう、もう一人の眼のくりくりした子は、分かりますか? 山崎(隆之)四段です。彼とも数年前再会を果しました(笑)。

10年前たまたま偶然出会った三人の子供、それが今それぞれの将棋の道を歩んでいる。会うは別れの始まりなどと言いますが、ふとしためぐり合わせにも、喜びと感謝の気持ちをいつまでも持っていたいな、なぁんて今月は、おりこうさんの、さ・お・り、でした。

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山崎七段と片上六段は森信雄七段門下。

島井咲緒里女流初段は森けい二九段門下。

三人とも”森門下”という共通点があることになる。

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広島県出身のプロ棋士は多い。

故人では、升田幸三実力制第四代名人、村山聖九段、村上真一八段、松浦卓造八段、畝美与吉七段。

引退棋士では、山口英夫八段、桐谷広人七段。

現役棋士では、山崎隆之七段、片上大輔六段、糸谷哲郎五段。

女流棋士では、松尾香織女流初段、坂東香菜子女流2級。