8月はデパートで行われる将棋まつりの季節。
1997年、ながの東急将棋まつりでの風景。
先崎学八段の2001年に刊行されたエッセイ集「フフフの歩」より。
(先崎六段が竜王戦決勝トーナメント準決勝 対真田五段戦で敗れた翌日の話)
休む間もなく次の日からながの東急将棋まつりに行かなければならない。夏は忙しい。
前夜はほとんど寝ていない。森内戦のかなり前から節制していた反動がきたのか、頭は完全な躁状態である。言葉悪くすればヤケクソ。興奮に酔ったままなのか本当に酔ったままなのか本当に酔っ払っているのか見分けもつかない。意識だけ夢の中の自分のようである。戦場から帰った兵士もかくや。
往きの車中は丸田先生と向かいだった。普段ならば緊張するところだが、なにせ僕の神経はキレていた。田舎のオジチャンといるような気分で喋っていた。
横川の駅で、斎田晴子さんが名物の釜飯を食べたいといいだした。僕は二日酔いだからいらないといった。
ふと見ると、斎田さんが釜飯を両手に持ってニコニコしている。
「一コだけ頼むのは恥ずかしかったんです」
丸田先生にどうぞというと、「君、若いんだから食えよ」といわれた。もう仕方がない。胃袋までヤケクソになった。
長野に着いてすき焼きを食べながらまた酒を飲む。節制のお陰で体調は絶好調である。
翌日、佐藤康光君と近藤君が来た。佐藤君も前日屋敷に竜王戦をやられたらしく落ち込んでいる。かくして近藤君も入れて竜王戦無念トリオができあがった。いつもは颯爽としているモテ光君もさすがに精気がない。
「はあー先チャンと三番勝負をやる予定だったんですけど」
「そやな。仕方ない。今から敗者復活戦で百円賭けて三番勝負しようか」
「・・・・・・バカ」
夕食の後、無念トリオに長沢、斎田の両美人を含めてお盆の街で飲めや唄えや。モテ光君はますます落ち込んでほとんど喋らない。僕、喋ってばっかり。
僕が「悲しみが止まらない」を絶唱して、長沢さんが「どうにも止まらない」を踊りながら唄いだした。「噂を信じちゃ・・・・・・」二番は近藤、先崎も加わり腰を振りながら三人で踊り出した。踊りながらふと席の方を見るとモテ光君と斎田さんがちょこんと座っている。本当に元気がない。
とうとうモテ光君は一曲も唄わずに帰ってしまった。
帰り道、近藤、先崎の二人は大トラである。近チャンはウオーとかワオーとか叫びながら町を歩いている。遂には女性の名前を連呼しだした。「○○子ー。○○かー」
次の日、二日酔いの体にムチ打って仕事をしていると森内、郷田、清水とやって来た。仲の良い奴が次々と来るので躁が止まらない。きくと、皆それぞれにヤケになっている。森内は順位戦で中原先生に負け、竜王戦で僕に負け、郷田は挑戦者決定戦を三連敗して「もう嫌だあ」。清水さんは女流王将を斎田さんに取られたばかりである。不幸者が長野に集った。
当夜はもう滅茶苦茶。最後は郷田、清水、田村、先崎で三時ぐらいまで飲んでいた。ホンマに仕事の最中なんかいな。
ほうほうの体で東京に帰る。一人になると現実に戻り、眠りつづけた。
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将棋世界に掲載された1997年ながの東急将棋まつりの広告をブログに再現してみたい。
谷川浩司竜王・名人(十七世名人資格者)をはじめ、人気プロ棋士23名が長野に!
1997年8月13日(水)→17日(日)
(主な内容)
席上対局と大盤解説、多面指し無料指導対局、将棋の話、懸賞問題「詰将棋」・「次の一手」、サイン会、プロ棋士との夢の特別対局(有料)ほか
(出場棋士)
谷川竜王・名人、中原永世十段、米長九段、清水女流三冠、斎田女流王将 ほか
(賞品多数 各種競技会 参加無料)
SBC杯高校生チャンピオン戦/14日
NBS杯職域別団体戦/17日
初級者戦/13日~17日
初段免状獲得戦/13、15、16、17日
ながの東急杯名人戦/13日
ながの東急杯アマ女流名人戦/13日
二段免状獲得戦/14日
ながの東急杯シニアチャンピオン戦/14日
信毎杯中学生チャンピオン戦/15日
TSB杯早指し名人戦/15日
ABN杯小学生チャンピオン戦/16日
谷川竜王・名人杯アマ強豪戦/16日
5日間にわたる豪華な将棋まつり。
既にA級だった森内八段、佐藤八段の名前でさえ出場棋士欄に現れてこない豪華布陣。
数え切れないほどの将棋大会。
すごい将棋まつりであったことがわかる。
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先崎六段が歌った「悲しみが止まらない」は、1983年にリリースされた杏里の代表曲のひとつ。恋人を親友に奪われてしまったという辛い曲だ。
長沢女流三段が歌った「どうにも止まらない」は、1972年の山本リンダの大ヒット曲。
”止まらない”繋がりで歌われたものと思われる。
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2006年に、二上達也九段(将棋ペンクラブ名誉会長)、湯川博士さん、湯川恵子さんとカラオケに行ったことがある。
二上九段は函館出身なので北島三郎の歌などが出てくるものと思いきや、ペドロ&カプリシャスの「五番街のマリーへ」など、ジャンルでいえば1970年代女性ポップスが得意だ。
湯川恵子さんが持ち歌「恋人よ」を歌いはじめると、二上九段も一緒に歌い出すほど。
ちなみに湯川博士さんは「黒の舟歌」一本。どこでも「黒の舟歌」。
ミーハーな私は、普段ならアイドル路線を歌うほうなのだが、こういう日は空気を読んで、1960年代後半歌謡曲路線でいくことにしている。
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将棋世界1997年8月号、野月浩貴四段の「将棋カウンセリング」より。
先日、知人のお祝いで棋士数名が集まった。2次会でカラオケに行ったのだが近年まれに見る楽しい時を過ごした。
普段はめったに歌を歌わない先崎六段が2曲も美声を披露してくれたり、深浦五段、中座四段の最近人気のグループ・スピードのデュエットなど、駒音コンサートの秘密兵器となりそうな歌でした。
今となってはSPEEDも懐かしい。
深浦五段と中座四段のデュエットというところが非常にレアだ。
どの曲を歌ったのだろうか。
記事が書かれた1997年6月以前にリリースされた曲に絞ってみたところ、「Go! Go! Heaven」である可能性が濃厚であることが判明した。
→Youtube 「SPEED – Go! Go! Heaven」
”ゴー・ゴー・ヘブン”の曲だ。