饒舌な南芳一九段

信じられない出来事が連続する。

将棋マガジン1990年6月号、神吉宏充五段(当時)の「何でも書きまっせ!!」より。

 四月八日の「囲碁・将棋ウィークリー」は、南棋王がゲスト出演。その帰り、一緒に新幹線に乗って一息ついたと思ったら、テレビの時とは信じられないぐらいよく喋ってくれた。その会話の中での傑作を一つ。

「この前、森(信)さんと野田さんと僕がハイキングに行った時な、ハアハア言うて疲れるぐらい歩いたんや。それでバテて休んでたら、森さんが手招きで僕らを呼ぶんや。何やろ?思て行ってみると、森さん耳元でこない言うんや『実はな、わし、空を翔べるんや』・・・・・・あんまりしょうもないんで、しょうもな!って言うたろと思ったら、野田さんが『何や、そんな事かいさー』ってな、こともなげに返しよんねん。ごっつい大人やで」。

 大人の野田四段は関西の奨励会幹事を酒井五段と一緒に務めている。何でも”旅行担当幹事”との噂。半日ぐらいは平気で歩く彼のことだから、きっと素晴らしい奨励会旅行になるに違いない。(遭難者続出か)

(以下略)

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まず驚くのは、寡黙なイメージの南芳一九段がこのような饒舌であったこと。

南九段は「だんじり祭り」で有名な岸和田の出身なので、このようなコテコテの大阪弁(泉南弁)になることは理屈では理解はできるが、それにしてもまだ信じられない気分だ。

そして、次に驚いたのは、森信雄五段(当時)が、「実はな、わし、空を翔べるんや」としょうもない冗談を言ったこと。

このようなことを耳元で話されたら、どのような反応をしていいのかわからなくなる。

「しょうもな!」とは、このような場合に非常に便利な言葉だと思った。

そして、野田四段(当時)の慣れた対応。

この一連の流れを標準語に置き換えてみるとどうなるか試してみたい。

この前、森(信)さんと野田さんと僕がハイキングに行った時に、ハアハア言って疲れるぐらい歩いたんです。それでバテて休んでいたら、森さんが手招きで僕らを呼ぶんです。何だろう?と思って行ってみると、森さんが耳元でこう言うんです『実はな、俺、空を翔べるんだ』・・・・・・勘弁してほしいと思って、もう勘弁してくださいよ と言おうと思ったら、野田さんが『なんだ、そんなことかー』って、こともなげに返事をするんです。大人だなあって思いました」。

印象がだいぶ変わってしまう。

特に、「実はな、俺、空を翔べるんだ」が、急激にアブない言葉に変わってくる。

森信雄五段が「実はな、わし、空を翔べるんや」と言うからこそ味がある言葉となってくる。

大阪弁、近畿弁の魅力と面白みがとてもよく理解できるような感じがする。