勝浦修九段が酔った時の口癖

先崎学八段の2001年に刊行されたエッセイ集「フフフの歩」より。

 三月は無茶苦茶に忙しかった。五日間閉居していたうえに、二十日間で五回地方へ行った。いずれも仕事である。殆ど家で寝なかったような気がする。

 その御褒美というわけでもないのだろうが、今日からオーストラリアに行く。これだけが楽しみで生きてきたようなものだ。

 メンバーは、森・勝浦の両御大に先崎、森内、外一名。

 例によって昼はビーチか公園で寝転がって夜はカジノ。

(中略)

 カジノの主役は勝浦先生だった。

 最終日にブラック・ジャックで大勝ち(とはいってもトータルでは負けらしいが)。二時間ばかりツキっ放しだったそうだ。

「なにをやっても勝っちゃうんだ。こんなのはじめてだよ」

 その日のホテルの部屋は狂騒につつまれた。

 勝浦先生が、超々々大機嫌になっちゃったのである。勝浦先生は酔うと「二十年したら分かる」というのが口癖で、なにかにつけていう。まず「分かる?」ときいて分かりましたと答えると、いや君には分かるわけがない、二十年したら分かるよ、という。分かりませんと答えると、やはり二十年したら分かるよというのである。たまにそれに合わせて、軽く扇子で頭を叩かれる。

 いやはや大変だった。

「分かる? 君、将棋指しというのはねえ(中略)分かる? 君も二十年すれば分かるよ、家庭を持ってだねえ、大変なんだよ、分かる? 君も(中略)理事としてもねえ、分かる? 色々と意見をするなら、自分でやってみなさいよ(中略)分かる? 今回旅行に来るときねえ、女房が心配するんだよ。誰と行くのかって、だからいったんだ、お前は亭主が旅行にいくのにいちいち疑うのかって、バカだねえあれは、そんなに俺がモテルわけないだろう」

「そうですね」

 バシッ(扇子が入った)「だからねえ、森、森内、先崎、て胸を張っていってやったの、そしたら土下座してねえ、バカだねえホントに。分かる? 二十年したら分かるよ。俺が心配して家に電話しても誰もいないんだ。男は辛いよ、分かる? 二十年すれば分かるよ、家に帰ったらねえ、女房のこと、まず蹴っ飛ばしてやるんだ、足でね、土下座させて、分かる? 二十年すれば分かるよ」

 今はただ、勝浦先生が、家に帰って、奥様に蹴られていないことを祈るだけである。

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非常に臨場感溢れる文章だ。

勝浦九段と飲みに行ったら絶対に楽しいと思う。

二冠を保有している勝浦一門(森内名人、広瀬王位)。

ところで、先崎六段(当時)がこの文章を将棋世界に書いた後の顛末は、以前のブログの記事に書かれている。

愛すべき勝浦修九段(1)