NHK将棋講座2006年11月号、青野照市九段の「将棋よもやま話」より。
スターというのは突然出現することが多い。東京・渋谷の東急将棋まつりが行われていた夜、パソコンでヤフーのニュースを見ていたら、突然、将棋の話が大きく出ていたので驚いた。見れば小学生の加藤桃子さんが、女流プロを負かしたとあるではないか。
この将棋は「2006年白瀧あゆみ杯争奪U-20女流トーナメント」という棋戦で、1回戦は将棋まつりの席上で行われた。小学生が女流プロに勝つのは異例だが、公式戦ではない勝利が将棋連盟のサイトではなく、社会ニュースとして扱われているのに、私は新鮮さを覚えた。同時に、我々プロの物差しではない価値観が、社会で大きく評価され、また新しいスターを作ることを、我々は正確に知る必要があるとつくづく感じた次第である。
彼女は静岡県出身で、父親は将棋で有名な藤枝明誠高校の先生だ。彼は元奨励会員でもある。奨励会をやめた後、学校を卒業して地元の高校の先生となり、藤枝明誠を日本でも有数の将棋の強い学校に育て上げた、立役者でもある。
加藤さんは前述の棋戦には出たものの、女流棋界ではなく奨励会を目指していて、8月末の奨励会試験に見事合格した。女性の合格者は彼女1人で、関東は44名のうち、合格者がわずか13名だったというから、超難関を突破したと言えるだろう。ちなみに関西は受験者が29名で、合格者は11名である。もっとも奨励会はいかに入会が難しくとも、プロの世界では単なるスタートラインだ。現役の女性奨励会員は伊藤沙恵6級ただ1人だが、男性陣に負けることなく、スターの座を追求してほしいと思う。
(以下略)
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当時の記事
→2006白瀧あゆみ杯争奪戦 U-20女流トーナメント 1回戦第2局 (女流棋士会HP)
→加藤さん、決勝進出ならず・白瀧あゆみ杯準決勝 (日経将棋王国)
→渋谷東急将棋まつり。 (渡辺明ブログ)
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今年という括りで考えてみると、「スターというのは突然出現することが多い」が加藤桃子1級に関して再び当てはまった年だった。
全くのオープントーナメントであるリコー杯女流王座戦が開始されたのがきっかけであり、リコー杯女流王座戦の誕生はエポックメイキングであったと言える。
更にはマイナビ女子オープンも控えている。
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加藤桃子1級のお父様である加藤康次さんは2008年8月に亡くなられている。
→「恩師 加藤康次先生。」 (明誠高校棋道部OB会)
先月号の将棋世界「加藤桃子1級 父との夢を追いかけて!」では、加藤桃子1級が、プロ棋士を目指すという亡き父との約束を果たすために、誰にも負けないくらいの努力をしていくつもりだと語っている。
ぜひ、プロ棋士になる夢を叶えてほしいものだ。
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今日はリコー杯女流王座戦第4局が行われる。→中継
今日、加藤桃子1級が勝てば、初代女流王座を獲得することになる。
昼食は、清水市代女流六段が力うどん、加藤桃子1級がうな重と予想したい。