将棋世界2002年6月号、市川猿之助(三代目)さんと清水市代女流二冠の特別対談より。
清水 私は今日、スーパー歌舞伎を初めて観させてもらいましたが、迫力のあるスペクタクルシーンにとても感動しました。また、ほろりとする場面も多かったのでずっと泣いちゃいました。歌舞伎の専門的なことについてはわかりませんが、いろいろと教えてください。
猿之助 初めて歌舞伎を観た清水さんが堪能することができて、本当に良かったです。歌舞伎は堅苦しいとかわからない、と言われることがよくあります。私は古典歌舞伎の素晴らしい要素を現代風にマッチさせたものとして、1986年にスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』を始めました。以来、今回公演の「新・三国志Ⅱ孔明篇」が第8作目になります。
清水 時間がたつのを忘れるほど面白かったです。
(中略)
清水 私たち棋士は実戦や研究で将棋を勉強します。歌舞伎の世界はどうやって勉強するんですか。
猿之助 基本的には師匠が口伝で教えます。でも本当のところは、芸は盗むものというように、教えられてうまくなるものではありません。簡単に教わっちゃうと応用が利かなくなるし、先人を追い越せません。
清水 そのあたりはプロ棋士の場合と同じですね。
(中略)
清水 失礼なことを聞きますが、舞台でせりふを言い間違えたり忘れたりすることはありますか。
猿之助 ありますよ。それはほんの一瞬ですが、本人にとってはとても長く感じますね。そんなとき、後で「とちりソバ」という罰則によって、全員にソバをご馳走することもあります(笑)。えらくなるとソバがウナギになったりして・・・。
(中略)
清水 猿之助さんは将棋をなさるんですか。
猿之助 子どものころに教わったことがありますが、それ以来やっていません。だから将棋のことはよくわかりません。でも一門の中では、若い弟子たちがよく将棋を指しています。そのうちの一人は、兄が佐藤さんという棋士とか。
清水 えっ、その棋士とは佐藤康光さん(王将)のことですか。
猿之助 確かそうです。その弟子の名前は市川段一郎。今回の舞台は都合によって出ていません。
清水 この写真(本誌のグラビア)の人が佐藤さんですが、似ていますか。
猿之助 そう思います。
清水 不思議なご縁ですね。
(以下略)
—–
市川猿之助さんは俳優の香川照之さんの父親にあたる。
それにしても、将棋とほとんど関わりのない市川猿之助さんが対談に来てくれているのだからすごい。
—–
「とちりソバ」は、現在は閉店してしまったが、歌舞伎座の至近距離にあった「宮城野」からの出前であったのではないかと思われる。
—–
私が歌舞伎を観に行ったのは一度だけ。2000年のことだった。
解説が流れてくるイヤホンがあったが、生で全ての雰囲気を味わいたいと思い、イヤホンは借りなかった。
雰囲気は楽しかったものの、やはり意味がわからなく、イヤホンを借りておけば良かったと後悔することになった。
—–
こういう失敗は二度目だった。
一度目の失敗は1985年のこと。
飲み会のビンゴで一等賞の「ブロードウェイ ミュージカル」のチケットが当たったことがあった(一名分)。
ミュージカルを観るのは初めて。
会場は五反田のゆうぽうと。
日本語訳が流れてくるイヤホンがあったが、生で全ての雰囲気を味わいたいと思い、イヤホンは借りなかった。
英語が得意でもないのに、よくそのようなことをやったものだと思う。
やはり、雰囲気は楽しかったものの意味がわからなく、後悔することになる。
終演すると、観客のスタンディングオベーションが始まる。
私は早く外に出たかったのだが、周りが皆スタンディングオベーションなので、「すみません」と言って抜け出せるような雰囲気でもない。
かといって、周りの人がスタンディングオベーションをやっているのに、私一人が座席に座っているわけにもいかない。
周りに合わせて私もスタンディングオベーションをやったが、スタンディングオベーションは外国人にやらせておけば良いもので日本人には馴染まないと思った。
日本人には日本人なりの感動の表現があるのではないかと。
—–
そういうことは別として、私は15年の時を経て、同じ過ちを繰り返してしまったということになる。
なかなか治らないものだ。