ゲのゲの鬼太郎、など

元・近代将棋編集長の中野隆義さんから貴重なコメントを複数いただいているので、今日はその紹介をしたい。

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芹沢博文九段、逝く(前編)へのコメント

芹沢流にはマージャンと碁でずいぶん可愛がってもらいました。
私めが大変に気に入っている「きたろう」という仇名は、芹沢流がつけてくれたものです。
「なんだ、お前、碁が打てるみたいだな。一局教えてやるぞ」
「は、はい。御願いします」
「好きなだけ置いていいぞ」
おずおずと六子置きましたところ。
「なんだ、この俺を相手にしてそんなもんでいいってのか。よーし、ひでー目に遭わせてやる」
「ゲゲーッ」
その後は石が多い黒の方が何故か攻められっぱなしで
「ゲゲーッ」「ゲゲーッ」を連発していましたところ
「なんだ、お前は。ゲゲゲゲ、ゲゲゲゲどうるさい奴だな。そういえばゲゲゲのきたろうってのがいたな。よし、お前は今日からきたろうだ」
私めはゲゲゲのきたろうの大ファンでしたので思わず
「は。ありがとうございます。では、喜んでこれよりゲゲゲのきたろうと名乗らせていただきます」と、満面の笑みでこたえますと
「ぶわっか。お前なんぞゲのゲのきたろうでたくさんだ」
「ゲゲーッ」

それにしてもたった一文字の違いでえらい違いです。

                            ゲのゲの きたろう

中野さんのハンドルネームは「きたろう」。髪型もゲゲゲの鬼太郎に似ている。

非常に芹沢九段らしい会話やエピソードだ。

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大女優が見た升田幸三へのコメント

ほんとうに升田流のお言葉は、どきっとさせられるものばかりでありまして、私めが将棋連盟に勤めているときに棋譜解説を受けに参りましたときには、「初めまして。日本将棋連盟から参りました出版部の○○です」と挨拶しましたら「ほう。将棋連盟から来たいうことは、大山の手の者だな」とやられまして思わずひえーっと縮み上がったものでした。当時は大山十五世名人が将棋連盟の会長で、その大山流と升田流とは犬猿の仲とされていましたから。それでなくとも升田流はおっかない先生というイメージがあったもので、その先生からお前は敵将の手の者だなと言われてはほとんど気絶に近い状態になるのも仕方ないところでありました。 フリーズしている私めに、こりゃ薬が効きすぎたと思われたのか、升田流は飼っている犬が私めに近寄ってクンクンやっているのを見て、「動物は相手が敵か味方か分かるものだ。どうやら君は敵ではなさそうだな」と助け舟を出してくれるのでした。 そのとき、あれっ、ほんとは優しい人なんだ。と思ったのです。

升田家の犬は座敷犬だったという。

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1987年、羽生善治四段にとっての初めての棋戦優勝へのコメント

<観戦記の、「井上慶太五段の近くにいる女性の方、もしこの文章が目に止まったら、彼の愛に気づいてやって下さい!」の効果が あったのかどうかは興味深いところだ。

これ、もろに効果があったと思われます。
当時、関西将棋会館の女性職員は皆それぞれに感じのよい方ばかりでして、私めは関西に出張に行くのが楽しみでした。あ、千駄ヶ谷の方々も素敵でしたよー、と、念のため申し上げときますうー。ふう、さて気を取り直しまして、関西会館の女性職員の中で、全てのしゃべりの語尾がクルリと上がる方がいらっしゃいました。コレがまたその容姿と年齢にピッタリと合った雰囲気を醸し出していまして、そうですねえ、可憐さと可愛さをミックスさせたような感じですか。その方が井上流と結婚したと聞いたときは、ホントにもう井上の野郎めえと、あ、いえ、井上さんおめでとーと心より喜んだものでした。
関西会館の女性職員なら若獅子戦の観戦記を目にする可能性が高いですから、読んで「あらっ・・?」と心のアンテナに感じるものがあったのではないかなと思います。

中野さんは、近代将棋→日本将棋連盟→近代将棋という経歴をお持ちなので、このような事情にも詳しい。

鈴木宏彦さんの観戦記が結婚の援護射撃になったとしたら、観戦記史上とても素晴らしいことだと思う。

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朝から闘志が充満している対局室へのコメント

大五郎流の盤前クラウチングスタート姿勢は何度か見たことがあります。初めて見たときは、ウオッ! ナニッ!? (@0@;)とびっくらこけました。
ある日、と金部屋で、大五郎流を真似する奨励会員が居て、皆でゲラゲラ笑っていたら、なんとご本人が入ってきて、シーンと固まる皆を見渡し「君。そんな格好で将棋指してちゃ駄目だよ」と言ったときは、笑いをこらえるのが大変でした。

「朝から闘志が充満している対局室」は、内藤國雄九段が佐藤大五郎九段の以下のエピソードを語った記事。

たとえば”マキ割り大五郎”と呼ばれていた佐藤大五郎さん(九段)との大きな一番で、こういうことがあった。朝、対局室に入ると大五郎さんは盤の前で両手を突いて、走り競争のヨーイドンの姿勢で固まっている。額には大きな(頭熱を吸い取る)膏薬を張っていて、闘志を部屋中に充満させていた。夜戦に入ってから膏薬を張る棋士は何人もいたが、対局前から張られたのはこのときだけである。

私は、真似をしていた奨励会員が誰だったのかとても気になっている。

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名人に定跡なしへのコメント

天然危険物って、ほんと面白い言葉ですね。ぴったしです。
将棋界はけっこうこうした面白造語を生み出しているなあと思います。

森ケイ二九段に終盤の魔術師というピッタリの言葉が冠せられてからしばらくしましたら、それに対抗して終盤のマッサージ師が生まれ、ついには終盤の道化師が登場したときは、はははーオレもそうだなと笑ってしまいました。

”終盤の魔術師”はあまりにも有名な呼称。

”終盤のマッサージ師”は、桐谷広人七段。マッサージは今で言うB面攻撃で、相手の玉ではなく相手の攻め駒を攻める入玉含みの指し方。

”終盤の道化師”、これは誰かわからない。

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魔術師、道化師などというと、思い出すのは江戸川乱歩。

「魔術師」は、江戸川乱歩の著した長編推理小説で、1930年7月から『講談倶楽部』に掲載された。 名探偵 明智小五郎の妻となる文代の初登場作品。

「地獄の道化師」は、1939年1月から『富士』に掲載された明智小五郎が登場する作品。

”終盤の”に江戸川乱歩の他の作品名をつなげるとどのようになるか試してみた。

終盤の二十面相

終盤の吸血鬼

終盤の白髪鬼

終盤の一寸法師

終盤の陰獣

終盤の恐怖王

終盤の黒蜥蜴

終盤の蜘蛛男

終盤の屋根裏の散歩者

・・・二十面相以外は、どれも付けられたくないような呼称だ。

しかし、終盤の吸血鬼、終盤の恐怖王、終盤の陰獣などは、とてつもなくイヤな終盤テクニックを持っていそうで、迫力満点かもしれない。

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