加藤一二三九段、真夏の嘆き

昨日の記事に、中野隆義さんから貴重なコメントをいただいた。

中野さんは当時、将棋世界編集部に勤務していた。

三浦流と加藤流との盤外バトルといえば、三浦流がまだ四段のころのことだったかと思いますが、A級棋士加藤一二三に対して三浦流がやってくれちゃったことがありました。
これはけっこう有名な話なので、ご存じの方もいられるでしょうが、え、ナニその話って、という方は聞いてください。

あれは、夏の暑い日でした。憤然とした面持ちで連盟三階の事務局に現れた加藤流は、一番最初に捕まえた職員に向かって一気にまくし立てました。

「あの。聞いてください。私が、暑いので室温を調節しようとしましたら、なんと相手の棋士がですね、私が調節した目盛りを元にグーッと戻してしまうんです。それで私がまた、目盛りをググーッと調節しますと、なんとなんとまたまた彼が負けずにですね、私が動かした目盛りをグググーッと戻しちゃうんですよお。これってどう思います?」

どう思いますって言われたって、捕まった職員さんとしては応えようがないですよね。私は、聞き耳を立てずともしっかりと耳に入ってきてしまう話に、隣席におわします北風のおじさんと顔を見合わせながら、必死に笑いを堪えておりました。

夏は暑がりの加藤流が、目一杯室温を下げようと動かした目盛りを、何の躊躇もなく元に戻したのが一年中寒がりの三浦流で、これが盤外・加藤ー三浦戦の第一号局であります。

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昨日の記事が「ストーブ事件」なら、この話は「冷房事件」。

「冷房事件」について、三浦弘行五段(当時)がインタビューでコメントしている。

三浦弘行五段(当時)の栄養ドリンク

当日は風邪をひいていて、なおかつ盤上没我の中、加藤一二三九段が冷房のスイッチを戻しに何度も行ったのは全く気がつかず、後で知って、まずいことをしてしまったと思ったという。

記録を見てみると、1993年7月22日の全日本プロトーナメント2回戦でのことだった。

この時も、三浦弘行五段が加藤一二三九段に勝っている。

風邪という悪条件にもかかわらず、加藤一二三九段の派手な動きも目に入らないほど盤上に集中していたことが、三浦五段の勝利の原動力だったのだろう。

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中野さんの文章に出てくる”北風のおじさん”とは、詰将棋作家の故・北原義治さんのこと。

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中野さんが近代将棋編集長の頃に書かれていた日記がネット上に残っているのを発見した。(近将ネット)。

編集長の近時片片

2003年7月から2008年までの、当時の将棋界のエピソードが満載の非常に貴重な史料とも言える日記。

週末にでも読みなおしてみたいと思う。