米長邦雄八段(当時)「横歩取り塚田流▲7七歩型」

昨日行われた電王戦、、ponanza-村山慈明七段戦(ponanzaが勝ち)は、ponanzaが今まで先手不利とされてきた横歩取り塚田流▲7七歩型の1図で▲7四同飛ではなく▲3六飛という新手を指した。

▲3六飛で先手が有利になるのかどうかは今後の検討を待つ必要があるが、今日は、1図で▲7四同飛だった場合のことについて。

横歩取り7

将棋世界1971年11月号、米長邦雄八段(当時)の「今月の戦法 横歩取り」より。

”横歩取りは先手有利である”との定説が定着して20年以上も経つ。時たま、年に数局指される程度であるから1パーセントにも見たない斜陽戦法といえる。ここでいう横歩取りとはA図を指す。A図の後、8八角成と交換して2五角と打ち、そこで先手が3二飛成の大英断が決め手で先手有利というのである。今度はB図を見ていただこうか。これも横歩取りではあるが随分違うはずである。今月研究するのはB図である。結論を先に言うと、難しくて私には分からないので困っている。軽々しく結論を出せないのだ。

 ここでは読者の参考になるような筋、手順及びその形勢の判定を下すのみにとどめておきたい。

横歩取り2

横歩取り3

(中略)

③塚田流

横歩取り1

 8図の形は塚田正夫九段が好んで指すので塚田流と勝手に呼ばせていただいた。この形からの特徴は①未完成の手将棋で定跡化された手順がない。②飛角とも持ち合う事となり短手数で勝負がつく。③手将棋の得意な方が率がよい。とまあこの三点が挙げられる実名を挙げれば塚田、花村、内藤、二上この四氏の対局には現れても、大山対中原にはまず実現しない将棋。これでその傾向が分かるだろう。つい最近大山-塚田戦にこの形が現れたが名局だった。最近はプロ間でちょっとしたブームになっている形なのである。

7七歩の研究

8図からの指し手
▲7七歩△7四飛▲同飛△同歩▲8二歩△同銀▲5五角(9図)

 8図では7七銀と上がるのが常識とされていたが、つい最近ここで7七歩と打つ新手が発表された。第一感悪手と思う(8八銀が壁銀になる)が、これには理由があって9図の5五角を打つための辛抱なのである。つまり9図で7七銀と上がっている形だと9図で8五飛と攻防に打たれる手がある。

横歩取り4

 実戦譜によれば長考の末9図から後手は7三角と打ち、1一角成を許して3六歩と攻め合いに出たがかまわず2一馬と桂も食われていっぺんに敗勢となった。これで7七歩が8図の形からの決定打と思われたが、その将棋を盗みみて逆用した男がいる。私だ。

9図からの指し手
△2八歩▲8二角成△2九歩成(10図)

横歩取り5

 実は前局の感想で「ここで(9図)2八歩がいやだった……」という独り言を聞く事が出来たのは幸せだった。2八歩を同銀は2五飛の両取り、同じ銀の取り合いでも飛車に成り込まれてはかなうまい。さて10図となると指し手は4八銀か8一馬だが、とにかく目に映るのが7七歩と玉の逃げ道をふさいでいる形である。10図から少し進めてみよう。

10図からの指し手
▲4八銀△2七角▲3八銀△5四角成▲2九銀△8六桂(11図)

横歩取り6

 4八銀と逃げずに8一馬も考えられるが3九と、同金となった時、3八歩と叩かれて先手がいけないようである。攻めの切り札は6三馬と引く詰めろだが5二銀と打たれると後手陣は堅い。

 2七角は好手。次に2八とと引いて角切りを見ている。2七角でなく2八とと先に引くと2九歩と打つ手筋があり逆転する。

 銀を打ってと金をはずしたのは安全を期したものだが今度は8六桂とこちらから来られて困る。11図、7九金は8七歩で問題外だが6八金と逃げても、8七歩、7九銀、9八桂成(妙手)、同香、9九飛で後手良し。5四馬が加わると後手陣は相当守りが堅い。とまあこのような将棋があって7七歩は決定だから大悪手へと転落したのだが、まだ難しくそう断定はできない。

(以下略)

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米長邦雄八段(当時)が冒頭に書いているように、この時代は横歩取りや角換わり腰掛銀は”斜陽戦法”と呼ばれていた。相掛かりもそうだったかもしれない。

もう終わったと思われる戦法、という位置付けだった。

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横歩取り塚田流▲7七歩型に対する米長八段の対策があまりに早く出てしまったため、1図から▲3六飛とした場合の流れが現れなかったのかもしれない。

ちなみに、8図から▲7七歩ではなく▲7七銀が本筋とされ、それなら先手有利というのがこの米長八段の講座での解説だった。