将棋世界1995年10月号、池崎和記さんの「昨日の夢、明日の夢 塚田泰明八段」より。
4月に東京将棋会館で塚田泰明と高群佐知子の婚約発表があった。
僕は記者会見を見ていないので、どんな発表があったか知らないのだが、報道によると「交際を始めたのは平成3年10月から」で「東京ディズニーランドなどでデートを重ね」たあと「3月に塚田八段が新宿の喫茶店でプロポーズ」。「挙式は来年4月の予定」だそうだ。
ウソツキ、と思った。二人が付き合っているらしいというウワサは3、4年前からあって、僕もこれまで何度か塚田に「ウワサはホント?」と聞いたのだが、彼はそのたび「何もありませんよ」と完全否定してきたからである。
しかもA級を陥落した直後にプロポーズしたというのだから、僕にとっては二重の驚きであった。
今月はその塚田を直撃する。
これまで棋士のプライベートな部分については、あえて言及を避けてきた。もともと棋士たちの将棋に対する熱い思いを聞きだすために始めた企画であり、今月もその基本方針に変わりはないが、ちょっとだけ禁を破らせてもらう。
高群は第一線で活躍している女流棋士である。当然、彼女のファンもたくさんいるはずなので婚約に至る経緯ぐらいは伝える必要があると考えた。
8月17日にJR新宿駅南口で塚田と待ち合わせをし、近くの喫茶店で話を聞いた。店内はゆったりとしていて高級感があった。ピーンときた。「ここで高群さんにプロポーズしたのでは」と聞いたら、塚田は「えっ、まあ」。図星であった。
―高群さんと付き合い始めたきっかけから聞きましょうか。
「お互い一緒の業界だから、昔から顔は知っているわけですよ。付き合う1年ぐらい前(いまから4年前)だと思うんですけど、早指し戦のあと関係者と食事に行って最終的に二人になったんです」
―解説と聞き手ですか。
「そんな感じ。彼女は記録係だったかもしれません。みんなで食事に行って、たまたま二人が残ったんで『ちょっと飲もうか』ということになった」
―そのときから気があったわけ?
「いや、そのときはまったくなかった。たまたま彼女がヒマそうだったんで、ちょっと帰宅の時間まで、という感じで誘ったんです。ところが、そこからまた何もないんですよ。次の年の夏、東京ドームで巨人戦があったんで彼女を誘ったんです。でも付き合いたいとか、そんなことは考えていなかったと思う。誘いやすかったから誘ったというだけで」
―恋愛感情が芽生えたのは記者会見にあった平成3年の10月からと。
「付き合い始めたという意識をもったのは、そうですね。婚約を発表したのが今年4月ですから、だいたい3年半になりますね」
―ウワサは僕も聞いていたけど塚田さんはそれをずっと否定していたでしょう。
「それは否定しまくるということで、二人の間で合意ができてましたから(笑)」
―別に隠さなくてもいいと思うけど。
「結果的に婚約まで行ったからいいんですけど、やっぱりダメになるときもあるじゃないですか。そういうとき、お互いに気まずいし、また周囲にそういうふうな目で見られるのは嫌だなと思ったんです。僕はいいけど、女性はちょっと辛いじゃないですか」
―3月のプロポーズは、A級順位戦の結果に関係なくプロポーズしようと決めていた、ということですか。
「そうですね。自分の中では気持ちは固まっていました。ただ、もしA級に残留していたら、もう少しあとになっていたと思う。落ちたんで、その勢いで、ということはあると思うんですよ」
―僕は高群さんをよく知らないんですが、どんな方ですか。
「性格は女流棋士の中ではおとなしいです(笑)。あ、これ書くんですか。ちょっとまずいなァ。彼女は普通サイズというか、あまり変わったところはないような気もします」
―将棋界では交際を隠し通すのが通例になっているけど、塚田さんは隠していることで苦しいことはなかったですか。
「別に密会していたわけじゃないし……。『見た』という人はけっこう多かったみたいですね。それで僕は辛い目に遭ったですけどね。ウワサが飛ぶじゃないですか、うちの世界は。みんないいかげんで『あの二人は付き合ってたけど、もう終わった』とか、いろいろありました」
―「逃げ切った」というウワサは僕も聞きましたよ(笑)。どういう家庭を築くつもりですか。
「彼女も現役を続けますんで、将棋中心の生活になると思います。パートナーとしては新鮮味はないけど安心はできるという感じですね。将棋界のことを全然知らない人だと、それはそれで新鮮ですけど、やっぱり大変でしょう。棋士の生活や習慣はちょっと変わってますから」
―連盟で記者会見をやったときは、どんな気分でした。
「あれは恥ずかしいものですね。やるもんじゃないです(笑)」
―二人はどういうふうに呼び合ってるんですか。
「その質問は絶対来ると思って、実を言うと僕、怖がってたんですよ」
―定跡通りですよ。
「僕は『さっちゃん』って」
―向こうは?
「彼女、これを書かれるのは恥ずかしいらしいんですよ」
―いいじゃない。早く言いなさい。
「『つかちゃん』って」
―ツカチャン!ハハハ。やっぱり笑っちゃうな。
これはやっぱり書かないほうが……
(以下略)
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「性格は女流棋士の中ではおとなしいです(笑)。あ、これ書くんですか。ちょっとまずいなァ」
あくまで当時の話だが、当時はおとなしくないキャラクターの女流棋士が非常に多かったということになるのだろう。
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以前のNHK将棋フォーカスで、塚田泰明九段、高群佐知子女流三段、塚田恵梨花女流2級の自宅でのインタビューがあったが、とても幸せそうで、微笑ましくなったものだ。
婚約当時の記事を見ても、本当に幸せそうだ。