名人戦第2局の逆転劇とテレパシー

昨日の名人戦第2局は159手の大激戦で佐藤天彦八段が制した。

最終盤、下図の局面で△8九銀から先手玉に詰みがあったことが発見されたが、羽生善治名人は読み切れず、△3四銀と受けに回った。それに対して佐藤天彦八段は▲4四金。ここでも同じ手順で詰みはあったが、羽生名人は△5四歩と受け、逆転してしまった。

佐藤羽生1

図からの詰み手順は△8九銀▲同玉△6七角成▲同金△7八金▲同玉△8六桂▲8九玉△7八銀▲8八玉△7九銀不成▲8九玉△7八桂成▲同玉△6八馬▲8九玉△6七馬▲7八合△8八金(19手詰)。

ニコ生で解説をしていた佐藤康光九段もこの手順に気がついたのは終局後のことだったので、プロ的にも気がつきにくい詰み手順だったのだろう。

佐藤天彦八段も、対局中、詰みには気がついていなかったとインタビューで答えている。

1分将棋で自玉への詰めろも気にしながらの読みなので、羽生名人といえども発見できなかったとしても不思議ではない。

現地の控え室でも、この手順を発見するまでに1分以上の時間を要している。

コンピュータソフトなら瞬時に詰めてしまうのだろうが、コンピュータと人間を比べること自体が無意味だ。

突けば血を噴く人間同士の対局。だからこそドラマもあり感動もある。

私も二日目はニコ生で中継を見ていたのだが、迫力とドラマのある素晴らしい一局だったと思う。

対局者同士のテレパシーというものがあると言われている。

佐藤天彦八段が対局中に自玉に詰みがあることに気がついていたとしたら(図のように▲2四飛とは指していなかっただろうが)、表情や様子を見ていなくても羽生名人にその気が伝わり、羽生名人も詰みを発見できていたのかもしれない。

お互いの智力をとことん振り絞りぶつけ合う対局室の濃密な空間を中継で見ていると、対局者同士のテレパシーというものがあっても全く不思議ではないと感じてしまう。

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2015年の王将戦第6局、郷田真隆九段(当時)も渡辺明王将(当時)も最終盤に同じ錯覚をしていた一局のこと→郷田真隆六段(当時)「あいや、しばらく」