対局中に出てきた恐ろしい握り飯

将棋世界1980年10月号、倉島竹二郎さんの「金名誉九段の大往生」より。

 私が名人戦の観戦記を書いた最初は、第1期名人戦の第2局で、木見金治郎八段対金易二郎八段という東西の長老同士の将棋であった。その将棋は金先生の勝利だったが、食事中に金先生から次のような愉快な話を聞いた。

 ある対局のとき、金先生は例によって長考にふけったが、そのうちひどく腹が減ってきたので「握り飯に塩をタンマリかけて持ってきてほしい」と注文した。女中は早速ホヤホヤの握り飯を皿に山盛りにして持ってきたが、その途端、妙に酸っぱい匂いが部屋中にひろがり、居合わせた連中が変な顔をしたが、金先生はそれに気付かず、考えながら片手を伸ばして握り飯を取り、山盛りのを夢中で残さず平らげてしまった。が、やっと長考が終わって次の手を指した途端、それが酢をたっぷりかけた握り飯であったことに気がついた。何とそれは女中の早合点で、金先生が秋田のお国訛りでシオをたんまりと云ったのを、スをたんまりと聞き間違えたのであった。それが分かって一同腹を抱えたが、長考中は酢であることに気付かぬほど読みに没頭していたので、如何にも金先生らしい逸話である。

(以下略)

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私は仙台市出身だが、私が子供の頃の年配の人達は、「し」を「す」と発音してしまうことが多かったと思う。

例えば、寿司は「すす」、話は「はなす」、獅子舞は「すすまい」。

秋田県の言葉も同じような雰囲気としたら、塩は「すお」という発音になる。

「握り飯に塩をタンマリかけて」は、「にぎりめすに すおを たんまりかげで」のように聞こえるはずだ。

つまり「塩を(すおを)」を「酢をー」と聞き違える確率は非常に高く、酢をたっぷりかけた握り飯が出てくるのは無理もなかったと考えられる。

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対局時の夕食は味がしない、と聞くことが多いが、金易二郎名誉九段のケースは、その本格的な事例と言うことができるだろう。

 

 

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