A奨励会員の戦慄の新手筋

将棋世界2005年2月号、飯塚祐紀六段(当時)の「矢倉で強くなろう!」より。

 かれこれ10数年前の話。奨励会の仲間8名でスキーに出かけることになった。修行中なので時間はいっぱいあってもお金がない。往復は夜行バスの格安ツアーだ。半徹夜の状態で朝から夕方まで元気に滑ると、いくら若くて体力に自信があってもさすがにヨレヨレになった。

 宿に戻りさあ夕食夕食、と話をしているとマッチョのAさん(一応仮名)が大きなかばんをなにやらごそごそしている。出てきたのはなんと!鉄アレイが3個で計8キロ。

 曰く、「スキーは他の荷物が多いからこれだけにしたんだよね」。これだけ…ですか?

 意表の新手筋に唖然とする一同を尻目にAさんは黙々とトレーニングを始めた。将棋指しらしい妙に気合の入った行いのように思い、猛烈に感心した出来事であった。

(以下略)

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飯塚祐紀七段が四段になったのは1992年4月なので、このスキー旅行は1992年3月以前のこととなる。

この頃、体を鍛えていた奨励会員は、豊川孝弘七段(1991年10月四段昇段)、丸山忠久九段(1990年4月四段昇段)、小川浩一指導棋士五段(1989年3月退会)などがいるが、2005年時点で「かれこれ10数年前」ということは1990年以降と思われるので、このA奨励会員は、かなりの確率で豊川孝弘七段だった可能性が高い。

控え室で繰り広げられた肉体の競演

自分の筋肉に見とれているT川六段(当時)

豊川七段は奨励会員時代、「ガッツ豊川」とも呼ばれており、鉄アレイ3個をスキー旅行に持っていくところなどは、まさに根性が入っている。

鉄アレイが入った荷物を持っている間も十分なトレーニングになる。