佐藤康光棋聖(当時)「私自身はまだ年齢的な限界を感じていません。限界を感じるには弱すぎる」

昨日の続き。

将棋世界2005年8月号、鈴木宏彦さんの第76期棋聖戦五番勝負「佐藤康光、羽生善治インタビュー 五番勝負を前に語る」より。

―羽生さん(佐藤さん)との対局の思い出は。

佐藤 記憶力が悪くて…。一度棋王戦のインタビューに応えて、「公開対局は初めてです」と言ったら、羽生さんに「2回目です」って言われたくらいなので(笑)

羽生 第7期竜王戦のパリ対局で自由時間にルーブル美術館に行ったら、中でばったり佐藤さんに会ったこと。広いんで、普通はなかなか会いそうにないんです。

―現在の自分と25歳の時の自分を比べて、記憶力は?

佐藤 落ちましたね。感想戦で持ち歩の数を思い出せないことがある。

羽生 衰えました。それに、必要のないところは切り捨てていかないと。

―体力的には?

佐藤 ちょっと不安かも。対局のあと寝ないでゴルフに行くのは平気だけど、通常モードに戻るのに時間がかかるようになった。

羽生 あまり変わっていません。2日制のタイトル戦は消耗するけど、それは若い時でも同じこと。

―将棋の技術は?

佐藤 上がっています。

羽生 読みの量は広く浅くなった。考え方の幅は広がった。

―では、今25歳の自分と対局したら勝てますか?

佐藤 まあ、勝ちます。

羽生 序盤の知識を含めれば、現在の自分が勝つ。

―1日制と2日制のタイトル戦はどちらが好き?

佐藤 基本的には考える時間は長ければ長いほどいい。

羽生 1日制と2日制は全然違う。4時間はあっという間。好き嫌いはない。それに合わせていかないと。

―この棋聖戦第1局が85局目の佐藤-羽生戦です。

佐藤 100局目指して頑張りたい。

羽生 もうそんなに、という感じ。

―今回の棋聖戦は自分にとって、どのような意味を持っていますか。

佐藤 タイトル戦は厳しいもの。そして、毎回特別なもの。大きい勝負です。

羽生 佐藤さんとタイトル戦を戦うのは久しぶり。戦いながら手応えを感じたい。

―羽生世代の天下はいつまで続くか。

佐藤 羽生世代という言い方は適当じゃない。羽生さんと他の人は区切るべきと思う。私自身はまだ年齢的な限界を感じていません。限界を感じるには弱すぎる。

羽生 王位リーグを見ても順位戦を見ても全体的に競り合いが増えている。安閑としてはいられない。

―いくつまでタイトル争いができそうですか。

佐藤 この2年くらい棋聖戦以外勝っていないし、どうなるか想像がつかない。このところ波が多かったので、今年はそれを上向きにしたい。

羽生 これは分からない。ただ、50歳になって今の対局日程を続けるのは大変かもしれない(笑)。

―棋聖戦に向けての意気込みを。

佐藤 十分な準備をして、十分な思いを込めて防衛したい。羽生さんは最強だが、その人と戦える喜びを感じながら、自分の力を出し切りたい。

羽生 佐藤さんとの対戦は久しぶりだが、棋譜は常に見ている。作戦は直前に考えますが、最終的にはその時々の局面に対処していくしかない。

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「第7期竜王戦のパリ対局で自由時間にルーブル美術館に行ったら、中でばったり佐藤さんに会ったこと」

ルーブル美術館の展示場所の面積は60,600平方メートルであるという。

東京ドームの建設面積が46,755平方メートルなので、ドームの内野席・外野席・グラウンド・外周部も含めたよりも30%広い所で二人が遭遇するようなもの。

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「私自身はまだ年齢的な限界を感じていません。限界を感じるには弱すぎる」

格好いい。あまりにも格好いい。感動的だ。