将棋マガジン1986年3月号、川口篤さん(河口俊彦六段・当時)の「対局日誌」より。
ある日の夕食休み、米長、青野、私の三人が地下の食堂で夕食をとろうと、エレベータに乗った。米長が行き先のボタンを押すと、B1のランプがついた。それに目をやった米長は「ウン?」という顔で青野を見た。青野も気がついてニヤリとした。
「なんだかいやなところを押したね」
米長はポツリと言った。
A級の棋士で、5勝している大山、桐山以外は、みんな同じ気分なのだろう。挑戦権はそっちのけで、とにかく5勝と血まなこになっている。そこには、降級のつらさは、昇級の喜びに数倍する、の不滅の法則がある。
(以下略)
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現在の将棋会館が建設された1976年以来、同じようなことを考えたA級棋士は数多かったと考えられる。
エレベータのボタンについては似たような話がある。
逆にB級2組の棋士はどのようにこのエレベータのボタンを見ていたのだろう。
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「降級のつらさは、昇級の喜びに数倍する」
人生の他のことでも同じようなことがある。
辛い言葉だ。