将棋マガジン1991年10月号、河口俊彦六段(当時)の「対局日誌」より。
午後3時
数ある好取組のなかで目をひくのは、羽生-西川戦。終了は深夜と見ていたがそうでない。
1図でひどい手が生じた。先手の狙い所が判りますか?
▲8五歩と打ち、次に▲8六飛(西川はそう予想していたにちがいない)と回るのは、好着想だがパンチに欠ける。
1図からの指し手
▲7一角△8三飛▲8四歩△同飛▲8五歩△8三飛▲8六飛(2図)▲7一角と、この一発で終わってしまった。よくある筋だが、こう打たれて西川もバカバカしくなったろう。駒をタダで取られたり、トン死を食ったりのポカはたくさんやっているだろうが、それでも力を出した、の救いがある。いつも真剣に指す、それが西川の身上だ。まして羽生が相手なら、期すものがあった。体調をととのえ、作戦を立て、準備を十分してきたはず。それがすべて無。バカバカしいとしかいいようがないではないか。負けるとすぐ帰ってしまった気持ちもよく判る。
▲7一角に△7二飛は、▲8六飛△7一飛▲8二飛成が両取り。防ぐなら△6二角だが、▲8四歩でどうにもならない。
で△8三飛と逃げたが、歩を叩かれ、2図となっては受けなしである。▲
2図以下は△9五角▲9六飛△9四歩▲9五飛△同歩▲7二角(3図)。
ここで西川は投げた。
午後8時
羽生が気持ちよさそうに将棋を調べている。満点の答案をさっさと出して、校庭で遊んでいるようなものだ。
(以下略)
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私のような昭和のアマチュア振り飛車党だと、1図からの第一感は、やはり▲8五歩~▲8六飛。
▲7一角が浮かんだとしても、△7二飛▲8六飛△7一飛▲8二飛成△6二角、で角損の割には大した戦果があがらないと、ここで読みを打ち切ってしまう。その後の▲8四歩があるのに……
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それにしても、羽生善治棋王(当時)の攻めの破壊力が凄い。
「羽生が気持ちよさそうに将棋を調べている。満点の答案をさっさと出して、校庭で遊んでいるようなものだ」と河口俊彦六段(当時)が書くほどの快勝パターンだ。
一般的な話で、一人で校庭で遊んで楽しいかどうかという議論は別として。