将棋世界1988年7月号、駒野茂さんの「関東奨励会レポート」より。
色々な局面、例えば絶妙手、珍手、大悪手などが出た場面はないかと嗅ぎ回っていたら、ある局面に出くわした。1図がそれで、ここで岡崎初段は△3二飛と回ったと言うのだ。
「何を考えていたんでしょうかねえ。あり得ない手ですよね」と、言いながら、以降の手順を見せてくれた。
1図から△3二飛▲2六飛△3三飛▲1七桂△1四歩▲2五桂△3二飛▲1四香=上手敗勢
この形にも定跡がある。1図から△3三角▲6八玉△1二飛▲7八玉△6二玉が最も自然な、よく指される順。この後、上手は玉を囲い、離れ駒をなくしてから、チャンスと見れば△1四歩と突き出して行くのが”郷田定跡”と呼ばれる新しい指向。
「僕もこう指す予定だったんです。ところが指したのは△3二飛。嗚呼ー」
(以下略)
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郷田真隆九段は、奨励会時代、自戦記で「僕の目標は、名人になることと、もう一つ升田先生や米長先生のように、将棋史にのこる新手を多く指すことです」と書いている。
様々な新手を編み出している郷田九段だが、奨励会時代から目標に向かって邁進していたことがわかる。
居飛車党なのに、香落ち上手(振り飛車)での「郷田定跡」なのだから、なおのこと格好いい。