「いつも笑っていてよくわからないです」

昨日に続いて、近代将棋1995年2月号、「棋界フィールドワーク 平成七年の棋界展望」より故・田辺忠幸さんと故・小室明さんの対談。

小室 次は丸山と森下ですね。丸山は本当に不気味な男だ。羽生が丸山のことを「いつも笑っていてよくわからないです」と言ってたけど、まさにその通りで、しゃべらないからね。観戦記者の質問に「ええ、まあ」を繰り返しているうちに24連勝だからね。

田辺 その丸山も森下にはまったく勝てない。現在まで4連敗だ。先日の棋王戦は丸山・谷川戦と同じ形だったんだが、森下は終始うなずきながら指して自信ありげだったね。森下の研究量が、丸山の粘りを封じてしまうのだな。

小室 丸山はタイトルを狙うんだったら森下のような苦手を作ってはいけない。新人王戦では優勝して郷田に3連勝なんだけどね。郷田、丸山、森下。この3人の得手、苦手関係もタイトル戦を左右するな。

(以下略)

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丸山五段は森下八段に分が悪く、森下八段は郷田五段に分が悪く、郷田五段は丸山五段に分が悪いということだ。(段位は当時)

その森下九段は丸山九段のことをどう見ていたか。

将棋世界2002年6月号、森下卓八段(当時)の名人戦第1局観戦記「森内研究おそるべし」より。

森内八段(当時)が初めてタイトルを獲得することになる名人戦の第1局。

 丸山名人と初めて接したのは13年前になる。米長邦雄先生が米長道場を開設されたときだった。当時、丸山名人はまだ奨励会員だったと記憶している。丸山名人を見たときの第一印象は、ニコニコした笑顔が可愛い無口な少年、と思ったぐらいで、とり立てて強い印象はなかった。

 米長道場ではかなり対戦し、その後も研究会などで随分と指したのだが、正直言って羽生竜王や佐藤王将、そして森内八段と互角に競い合うほど強くなるとは思わなかった。いまとなっては不明を恥じるのみだ。ただ、私は見る目がなかったが、小野修一さんは10年以上も前から「丸山君の秘めている能力は凄いものがある」とよく言われていた。慧眼には感服させられる。

 丸山名人は数年前からウェイトトレーニングをされていると聞く。そのせいか見るからにガッチリしている。髪型も変えて、顔つきも精悍だ。

 私の眼力のなさはともかくとして、丸山名人こそ自分で自分を鍛え上げ、見事に自己変革を成し遂げた人物ではないだろうか。

 対する森内八段だが、森内八段がまだ奨励会の二段か三段の頃に見たとき、野球の清原選手によく似た少年だなあ、と思ったことを憶えている。現在では似ても似つかないが。

 森内八段とも研究会などで随分指しているが、旅行に行ったことも何度かある。森内八段を近くで見ていると、非常に几帳面で慎重な性格ではないかと感じる。細かいところまで神経がいき届いている。

 棋士の場合、性格と将棋が一致しない人も多いが、森内八段はピッタリ一致しているように思う。スキがなく、水も漏らさぬ将棋である。

(中略)

 丸山名人と森内八段を見比べると、二人はあまりに対照的だった。

 丸山名人は身長こそ森内八段より低いが、身体全体に厚みがあり、山のように大きい。名人を30年やっているかのような貫禄がある。ウェイトトレーニングで鍛えたこともあると思うが、やはりここ数年の戦績と自信が大きく影響していると思う。その巨体と貫禄に、可愛かった少年時代の面影は全くない。

 逆に森内八段は、見た目こそゴツゴツしているが、少年のように初々しい。十数年前の少年時代と少しも変わっていない。この純粋さこそ、森内八段の強さの秘密かもしれない。

(以下略)

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写真を見ると、この頃の丸山名人はたしかに恰幅がいい。

結婚をしてから、かなりなダイエットをして元に戻したのだと思う。

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強いて言うなら、丸山九段の「ヒレカツサンド」と「バナナ」は結婚前の嗜好、「パパイア」などの南国系果実や和食系弁当は結婚後の好みということになるのだと思う。