『兄弟子の秘密は何でも知っている』

将棋世界1997年9月号、神吉宏充六段(当時)の「今月の眼 関西」より。

 桂三枝さん。大の将棋ファンでいつも仕事に遊びに仲良くして下さる師匠である。「ああ神吉さん、いらっしゃ~いオヨヨ!谷川さんやりましたなあ。竜王位と名人位の二冠王ですか。良かったですなあ。最近はこっちに明るい話題が少ないだけに、これで関西が元気になりまっしゃろ。そうそう、今度谷川さんの快挙を祝って、神戸でチャリティーコンサートをやりませんか?谷川さんと私、神吉さんに井上慶太八段もお呼びしたいんですけど」

 いきなりのお誘いである。いつも師匠には飛びきりのアイディアで、棋界に風を吹き込んでもらっている。今回も震災復興と神戸のファンに、感謝の気持ちを返す企画だから有難い。早速谷川・井上両先生に電話すると、即オッケーで応えてくれた。そして実現したのが名人就位式の2日後の7月26日、神戸はハーバーサーカス内、吉本海岸通り劇場にてチャリティーライブとして行われることになった。

 この原稿を書いている今はどんなライブになるのか全く想像もつかないが、トークあり、笑いあり、ゲームありのこれまでにない将棋の面白さと谷川竜王・名人の魅力が見られるだろう。来月のこのコーナーでその模様をご紹介しますのでお楽しみに!

 ところでそのライブのパンフレットが将棋会館に送られてきたのだが、井上慶太八段の紹介のところに『兄弟子の秘密は何でも知っている』と書かれてあり、それを見た慶太先生は私に抗議の嵐。

 「何でっか、この紹介は。そんな書き方されたら、ファンの皆さんはワシが秘密を暴露するんを期待して来はるんに決まってるでしょう。そら暴露したいで。したいけど、言うたらもう谷川先生お付き合いしてもらわれへんですがな」 そう言って、事務所にたまたま来ていた谷川先生をチラリと見る慶太弟弟子。谷川先生は右手でサッとメガネを揚げる。うーん、何か激しい戦いが行われたような・・・???

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これは、谷川浩司竜王・名人(当時)が、弟弟子の井上慶太八段(当時)に代わりに語らせる形で、チャリティーライブで自分の秘密が暴露をされるのを未然に防いだのだとも考えられる。

なかなかの高等戦術だ。

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将棋のイベントなどで、『兄弟子の秘密は何でも知っている』と題したトークショーがあれば非常に面白い企画となることだろう。

若手棋士覆面座談会『兄弟子の秘密は何でも知っている』、でも良いかもしれない。

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ところで、「来月のこのコーナーでその模様をご紹介しますのでお楽しみに!」と書かれているが、その来月の号を私は持っていない。

残念。