羽生善治棋王(当時)「まさに”忍者屋敷”と呼ばれるのにふさわしい手順でした」

若い頃の屋敷伸之九段は「お化け屋敷」、「忍者屋敷」などと呼ばれていた。

今日は、そのニックネーム通りの、まさに忍者を思わせる一局を。

将棋世界1992年1月号、羽生善治棋王(当時)の自戦記「大錯覚の一局」より。

 今月は第59期棋聖戦、屋敷伸之六段との一局を見て頂きます。

 この棋聖戦は1年に2回もあるというスピーディーな棋戦で、参加していると、次から次へと棋聖戦を指している感じになります。

 本局は本戦の2回戦、ベスト4入りを決める一番です。

 屋敷六段のこの棋聖戦での活躍は記憶に新しい。

 今回もリターンマッチを狙っているところでしょう。

塚田流

 屋敷六段はどんな戦型でも指しこなすオールラウンドプレーヤー、そして仲々の作戦家です。

 今回は何をやってくるのかと楽しみにしていたのですが、戦型は塚田流と呼ばれる最近では珍しい形になりました。

 この形は故・塚田正夫実力制第2代名人が愛用していたところからその名が付いたものです。

 非常に激しい戦いになりやすく、一つ間違えるとすぐに負けにつながります。

 プロの実戦譜では▲7四同飛の所では▲3六飛として穏やかな流れにする人が多いようですが、私は激しいほうの手順を選びました。

 △6四歩が屋敷六段の新手。そしてたぶん秘策だったのでしょう。

 ここから大乱戦の幕が切って落とされます。

1991_2 

1図以下の指し手

▲2八飛△2二歩▲6四角△7三角▲5三角成△5六歩 (2図)

未知の世界へ

  △6四歩の意味は、▲同角なら△2八歩▲同銀△2四飛、▲8三飛なら△2七角がぴったりということです。

 よって、▲2八飛と自陣の憂いを消してから、▲6四角に期待をかけることにしました。

 屋敷六段の方も平凡に馬を作らせて歩損をしたのでは良い所がありませんから、その前に何か一仕事しなければなりません。

 その第一弾が2図の△5六歩です。ここでは△3六歩も目に付きますが、▲2六馬△3七歩成▲同桂で存外手になりません。

 △5六歩の意味は、▲同歩ならそこで△3六歩、▲4八銀なら△5七歩成▲同銀△5五飛で何れも先手崩壊です。

 では、この局面での最善の受け方は?

1991_4 

2図以下の指し手

▲3五馬△3六歩▲同歩△8五飛▲7九金△3五飛▲同歩△2八角成▲同銀△5七歩成 (3図)

大乱戦

 ▲3五馬がこの場合の最善の受けです。

 一見、△8五飛で決まってしまいそうですが、▲2四馬△3三金▲8六歩で大丈夫。

 とにかく無事に収まれば歩得が生きます。

 ▲3五馬に△3四歩も▲同馬△5七歩成▲2四馬で何事もありません。

 △3六歩~△8五飛がうまい攻め、馬を取って△5五角打が狙いです。

 その前に△8五飛に対する受け方も難しい所、▲8六歩、▲8八銀、▲7九金が考えられます。

 ▲7九金はちょっと洒落すぎだったかもしれません。

 読み筋としては△3五飛▲同歩△5五角打▲5八飛打で受かっているというものだったのですが、今度は別の攻め筋が生じてしまったのです。

 それが、本譜。馬と飛車を取り、△5七歩成として3図。▲5五飛として小康を得ることが出来そうですが、返し技があったのです。

1991_5 

3図以下の指し手

▲5五飛△5二飛▲5三歩△6二飛▲5七飛△5六歩▲同飛△6七飛成▲8六飛△7三桂 (4図)

冷静な一手

 ▲5五飛に△5二飛と合わせ▲5三歩に△6二飛、▲5七飛の一手で△5六歩、見事に▲7九金の欠陥をつかれ、無条件で竜を作られてしまいました。

 戻って、3図で▲8四角も△7三角があってうまくいきません。

 こんな玉のそばに竜を作られたらだいたい駄目なのですが、▲8六飛となってみると後手も結構、指す手が難しい。

 金銀が前線に参加していないので、竜と角と歩だけで攻めるしかなく、戦力が限られているという意味もあります。

 しかし△7三桂が冷静沈着な一手。取られそうな桂を逃げて攻めに厚みを加える一石二鳥の一手なのです。

 こう指されてみるとやはり苦しいかと形勢不利を自認しました。

 2図から4図までの手順はまさに”忍者屋敷”と呼ばれるのにふさわしい手順でした。

 1991_6

(以下略)

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大野八一雄五段(当時)は、屋敷伸之六段(当時)を称して、「秋、冬、春は忍者で、夏はお化け」と書いているほど。

1図の△6四歩がまず妖しい。

そして、そこから繰り広げられるハラハラするような応酬。

羽生善治棋王(当時)に疑問手は出ていないのに屋敷六段が有利な展開となっている。

羽生棋王は次のように書いている。

 屋敷将棋の特徴は序盤から大胆に動いてポイントを稼ぐと、地味なコツコツとした手を指して勝つところなのですが、その変わり身のうまさには感心させられます。

 それと発想がユニークというか目新しいというか、他の人にはない特異な感覚の持ち主です。

この一局は、終盤になって羽生棋王が盛り返したのだが、詰みを見誤って敗れている。

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忍者というと思い出すのが、ショー・コスギさんのハリウッドでの数々の「ニンジャ映画」。

アメリカで起きた1980年代のニンジャブームの立役者だ。

アメリカ人のイメージするニンジャなので、ヌンチャクなど実際の忍者が使っていなかった武器も出てくるが、結構面白い映画が多かったと思う。

私は、アメリカ人が日本のものを少し誤解して良い方向でオーバーに描く映画が意外と好きだ。

ショー・コスギさんが、ショーギ・コスギと名前を変えて、棋士が悪の軍団を退治するようなハリウッド映画ができないものか、と一瞬考えたりもしたが・・・

SHO KOSUGI: THE NINJA (Youtube)

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