中井広恵女流名人・王位(当時)の嘆き

将棋世界1992年4月号、中井広恵女流名人・王位(当時)の第18期女流プロ名人位戦〔中井広恵女流王位-林葉直子女流名人〕第5局自戦記「大きな出産祝い」より。

 妊娠してから、家に居ることがグッと多くなった。今までが跳びはねすぎだったのかもしれないが、遊びの誘いもパッタリ。

 「こんな象アザラシ、誰も相手にしないよ」

 と言うのが主人の口グセだ。自分の女房に象アザラシというのもひどいと思うが、確かに鏡に映った自分を見ると、太った太った。今の私と一緒に歩くのは、かなり勇気がいる事だろう。

 私は何故か昔から相撲取りにたとえられる。以前は、同じ北海道出身ということで千代の富士が多かった。が、この間ふと、ある記事を読むと、

 「舞の海のような林葉の動きを封じ込む小錦中井」

 とある。これは、あまりにも失礼ではないだろうか。確かに太ったのは事実だが、あの小錦(彼は個人的には好きだが)にたとえるなんて・・・。

 希望としては、将棋界の橋本聖子、或いは伊藤みどりと書いてほしい。

 アルベールビルオリンピックでは、テレビを見ながら思わず感涙した。あれだけのプレッシャーを感じながら自分の力を出すというのは、容易なことではないはず。なんせ、背負っているものは「日本」という国なのだから。

(以下略)

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中井広恵女流六段は、対局の時には大きく見えるが、実際には小柄でとても可愛らしい雰囲気だ。

厚みを重視する棋風なので、力士にたとえると、ガッチリと四つに組んでグイグイと押してくるタイプ。

そういう意味で、力士に例えられやすかったのだろう。

    

ところが・・・

将棋世界1999年2月号、巻頭グラビア「第25期女流名人位戦A級リーグ最終局」より。

それぞれの対局の写真に付けられたキャプション。(段位は当時のもの)

斎田晴子女流三段-碓井涼子女流二段→「碓井、快勝で天運を待つ。」

山田久美女流二段-矢内理絵子女流三段→「矢内、悪夢の逆転負け!」

高群佐知子女流二段-植村真理女流二段→「高群、有終を飾る」

中井広恵女流五段-石橋幸緒女流二段→「中井ママ、石橋を沈める」

中井-石橋戦は、石橋女流二段(当時)が勝てばプレーオフ進出の可能性があったところを、中井女流五段が決め手を与えない指し回しで勝利。

この頃、中井女流五段(当時)は身重の体だった。

力士に例えられてはいないものの、4局の中で唯一、ネタっぽいキャプションになっている。

美味しいところを総取りしているような見方もできるが、なかなか中井広恵女流五段の思い通りにはいかなかったようだ。