渡辺明竜王「棋士の本音が出ていない。当たり障りのない、どこかで読んだ話が載ってることが多い。狭いプロの世界だから本音を言うと損するからでしょうが、ファンはもっと棋士の本当の姿を知りたいはず」

将棋世界2005年3月号、第17期竜王戦第7局「やっと勝ったんだ」より、読売新聞の西條耕一さんの渡辺明新竜王インタビュー。

 年が明けた1月7日、将棋会館で渡辺竜王にインタビューをした。

 まず今回のシリーズを振り返ってもらうと「事前の予想は森内竜王乗りが多かったので、とにかく4連敗だけは避けたかった。初戦のソウル対局に勝ててほっとした」と笑顔で話し始めた。

 第2局、第3局と連敗したが、第4局で二度目の8五飛戦法から中盤△3七歩の妙手で流れを引き寄せた。

「森内竜王の方に何かあれば終わりの局面によく踏み込んだという風に言われましたが、元もとそんな簡単に終わる局面じゃないです。また、研究で勝ったといわれるのは違いますね。さすがにそこまでは研究してませんから」。実戦派と自称するだけに、研究の将棋といわれるのは不本意のよう。

 第5局が「今シリーズ1の内容だった」という。後手森内の陽動振り飛車。「いつもなら居飛車穴熊に囲ってそれからだが、スキがあると見て薄い玉のまま自分から動いて優勢にできた。今まではあまりできていなかったので、それで勝てたのが大きな自信になった」と話す。

 渡辺が谷川浩司棋王の将棋に憧れ、実戦集に載っている全棋譜を何度も並べた話は有名だが、実は羽生善治二冠の棋譜もすべて並べている。

「優勢になってから、どうやったらあんなに簡単に勝てるんだろう」と思って並べ始めたが、今でも「そういう技術を早く習得したい」という気持ちは強い。

 第5局を観戦していて、羽生将棋を意識しているような気がした。

 優勢な局面から一気の寄せ……。結果論だが、最後に森内が平凡な受けの手を逃したため勝ったが、実は際どく、そう(△7二金)指されていれば負けていたかも知れない。「やっぱり優勢な将棋を勝つのは大変なんですね」。

 渡辺が指す戦法は先手なら矢倉、後手なら中座飛車、相手が振れば居飛車穴熊かたまに棒銀とパターン化している。「課題は指す戦法が限られていること」と本人も意識しており、「もっとレパートリーを増やしたい」と抱負を語る。

 後手番の第4局は立ち会い、解説が藤井九段、久保八段、杉本六段と皆四間飛車党だった。「でも振り飛車はできない。羽生さんみたいに何でも出来たら、解説しやすいように飛車振ったんですけどね」と言って苦笑した。

 ただ「さらに強くなるためには、序盤から終盤まで全体に底上げしないといけない」と言う。今は勝つために一時的に戦法が偏っているだけなのだろう。今後どういう戦法を指すのか楽しみだ。

 また、竜王になったことで、今後は将棋界の顔として活動する。この日も取材が目白押しだった。

「もう今日だけで何時間しゃべったか分からない。声ががらがらになって来ました」と言うが、七番勝負期間中もTBSの「情熱大陸」、NHKの成人の日特集の密着取材にもそつなく対応、大物ぶりがうかがえた。

 免状に森内名人と並んで署名するため、インタビューの前日、書の師と仰ぐ石橋幸緒女流四段の猛特訓を受け、「4時間書いてやっと合格になった」と苦労話も。

 将棋連盟に対しての要望はいくつかあり、その一つとして、「今以上にファンサービスに取り組むべき」と提言する。サービス過剰は良くないが、たとえばイベントに出演する棋士を見ていて不満に思うことが多いという。

「将棋祭りで自分の出番が終わったら、すぐ控え室に引っ込んじゃうのはどうでしょうか。遊び将棋を指してるファンのところに行って少し見て、『ここはこう指すべき』と言って交流したり、記念撮影に応じたりすることは簡単なこと。もっと棋士は積極的に活動していいのでは」と実に前向きな意見を持っている。

 竜王戦七番勝負で全国を駆けめぐり、前夜祭で数え切れないほどのファンに囲まれ、握手を求められ、記念撮影を頼まれた。地方の将棋熱がいかに盛んか、棋士という存在をいかに尊敬してくれているのかも知った。「そういうファンの期待に応えたい」という持論は変わらない。

 1年半前、友人の手によってインターネット上でホームページが開設された時、「コンテンツが少ないから」と書き始めたのが「若手棋士の日記」。渡辺の私生活からタイトル戦を指した感想まで素直に書かれている。

 昨年7月、長男の柊君が生まれたあたりから読み始めた筆者も、いつの間にか渡辺の家庭のことから、よく村山四段や戸辺三段と焼き肉を食べていることまで知るようになった。これもまた大きなファンサービスだ。

「1日5分か10分、パソコンの前に座れば出来るのだから」。今後もよほどのことがない限り続けて行くという。

 最後に本誌への提言もある。

「棋士の本音が出ていない。当たり障りのない、どこかで読んだ話が載ってることが多い。狭いプロの世界だから本音を言うと損するからでしょうが、ファンはもっと棋士の本当の姿を知りたいはず」と手厳しい。

 第7局の打ち上げの席の話だが、新竜王は「将棋雑誌を全棋士に配るのをやめれば棋士が観戦記も自戦記も一切読めなくなるから、みんなが好きなことを書けて面白くなるんじゃないですか」とも言っている。

 それはもちろんジョークにしても、若い世代を代表する立場から将棋連盟にいろいろな提言をして将棋界を活性化させてほしい。それは20歳の竜王にしか出来ない仕事である。

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このインタビューから11年。ファンと棋士の関係は、渡辺明竜王が提言しているような姿にどんどん近づいている。

将棋史的には、羽生世代とは違ったタイプのスター棋士の誕生と言うことができるだろう。

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渡辺明竜王の「若手棋士の日記」は「渡辺明ブログ」となり、多くのファンを楽しませてくれている。

もし仮に、インターネットが100年以上前に誕生していて、「関根金次郎ブログ 暁の全国放浪」、「阪田三吉ブログ 銀は泣かせへん」、「木村義雄墨東日記」のようなブログが現在も見ることができたとしたら、これは凄いことだが、現在の棋士のブログは、50年後、100年後にそのような存在になるわけで、将棋界の大きな財産になることは間違いない。