将棋世界2005年3月号、読者の投稿欄「と金パーク」より
羽生さんの生年月日の合計は81ですね。将棋盤から生まれたようで。タイトルも81獲得するのではないでしょうか。
(新潟県 Sさん 86歳)
〔編集部から〕
昭和45年9月27日。45+9+27=81。本当だ!タイトルを80取れば大山十五世名人と並ぶ最多タイ記録。81取れば大記録!教えていただいたお礼に、羽生二冠にちなんだ記念品を送らせていただきます。
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本当によく発見できたものだと思う。
歴史的な発見とまではいかないとしても、かなりな発見であることは、編集部の興奮が物語っている。
羽生善治名人の大ファンの方なのだろう。
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インドの数学者・ラマヌジャン(1887年-1920年)が病気で療養所に入っている時の、見舞いに来た共同研究者の数学者・ハーディとの会話は次のようなものだったという。
ハーディ「乗ってきたタクシーのナンバーは1729だった。さして特徴のない数字だったよ」
ラマヌジャン「そんなことはありません。とても興味深い数字です。それは2通りの2つの立方数の和で表せる最小の数です」
これはつまり、3乗された数字の和が2通りだけのもの(A = B3 + C3 = D3 + E3)の中で最小の数が1729だということ。(1729 = 123 + 13 = 103 + 93)
昭和45年9月27日→45+9+27=81 を見て、このラマヌジャンの話を思い出した。
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ラマヌジャンは、私が大学1年の時に数学史の本を読んで、とても印象に残った数学者。
なんといっても凄いのは、ラマヌジャンは次々と新しい定理や公式を発見しているのだが、これらは論理の積み重ねではなく、感覚的に神がかりのように、直感で正しい定理を予測したこと。
夢に出てきたヒンドゥーの女神のお告げで発見した定理もあるという。
ラマヌジャンは系統的な数学教育を受けなかったため、「証明」という概念を持っておらず、証明無しの「定理の予言」をし続けた。
共同研究者でありラマヌジャンをイギリスに招聘した高名な数学者・ハーディは、ラマヌジャンの個性や独創性を活かすために、証明を無理強いするようなことはせず、自分が証明を引き受けた。
短所を直すことにより、それと表裏関係にある長所を失う「角を矯めて牛を殺す」ようなことをハーディは避けたものと思われる。
しかし、このようにラマヌジャンの素晴らしさを理解してくれる環境ではあったものの、ラマヌジャンはイギリスの生活に馴染むことができず、やがて病いを得てインドに帰国、少しして亡くなってしまう。32歳の若さだった。
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週刊新潮最新号の藤原正彦さん(数学者・エッセイスト)の随筆に、
- 囲碁で井山裕太七冠が誕生したこと
- 誕生翌日の新聞のコメントの中で、谷川浩司九段の「囲碁は詳しくありませんが、井山さんにだけ見えている世界があるのでしょうか」という言葉が印象深かったこと
- 同じように頭が良く研鑽を積んだ棋士ばかりの中で一人だけが勝ち続けるのは、井山七冠にしか見えていない世界があるのだろうと、自分も同じことを思っていたこと
- 新婚旅行の時に観光地の画家に妻の似顔絵を描いてもらったが、特徴を上手につかんでいて、自分には何日かけてもこれほどには描けない、画家と自分では同じものを見ていて全く違うものを見ていると思ったこと
- 学生の頃、数学の家庭教師をしている時にも同じことを感じた。自分は問題を読んだだけで自然に解けている(頭を使って考えたというよりも、この道を歩けば解決につながるという一本道が見えている)ものが、数学が不得意な生徒にはどうしても解けない。
- 数学における一本道を見る力は、誰もが持つ五感とは違い、方向感覚、美感、絶対音感みたいなことかもしれない
と書かれている。
そして、数学者が皆同じ風景を見ているかというとそうでもなく、フィールズ賞を受賞した小平邦彦氏の自然な一本道の見え方、インドの天才数学者ラマヌジャンの一本道の見え方について言及している。
小平邦彦氏に代表される数学者の場合は、直観したことを裏付けるために様々な計算などを行って理論や定理を一般化していく。
将棋で言えば、直感で見えた手を読みで検証していく、まさに棋士と同じスタイル。
一方、ラマヌジャンは一本道一筋の人だったのかもしれない。
将棋で言えば、全然読まずに、直感で見えた手(結果的に正しい手ばかり)を指す早指しの棋士。
あるいは、詰将棋を見て、途中の手順は考えずに詰め上がり図を当ててしまうような人。
死の床で、ラマヌジャンが発見した「擬テータ関数」が、死後90年経った近年になって様々の深い意味や応用が見出されるようになったという。
藤原正彦さんは、「(ラマヌジャン)本人は無論そんなことに気付いていなかったに違いない。ただ天才には、豊かなるものが光り輝いて見えているのではないか、井山七冠の見る盤面もそのようなものなのかもしれない」と結んでいる。
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プロ棋士は、盤面で豊かなるものが光り輝いて見える集団なのだと思う。
そして、数学者の新しい定理の発見と、棋士が指し手を決める過程が、あまりにも似ていることに驚かされる。