屋敷伸之棋聖(当時)「三浦君はかなり硬くなっていた感じがしました」

今日行われる棋聖戦第5局、立会人は屋敷伸之九段で副立会人が三浦弘行九段。

屋敷九段と三浦九段は研究会仲間で仲も良く、19年前の棋聖戦五番勝負では二人が戦っている。

今日は、三浦弘行棋聖を破って棋聖位を奪取した時の屋敷伸之新棋聖のインタビューを。

将棋世界1997年9月号、「第68期棋聖戦決着 無心の勝利」より。インタビューは野口健二さん。

当時の屋敷棋聖らしさが全開。

―順調に勝ち上がって挑戦権を獲得し、久し振りのタイトル戦でしたね。

屋敷 そうですね。決勝トーナメントでは、結構いい将棋が指せました。

―五番勝負が始まる前に、勝算はありましたか。

屋敷 勝ち負けは全然考えてなかったです。結果は結果ですから。とにかくいい将棋を指せるようにと心掛けていました。

―3局目までは後手番が勝つ展開でした。

屋敷 三浦君に序盤からいろいろと工夫されたので、非常に勉強になりました。

―調子はどうでしたか。

屋敷 割りとよかったと思いますが、内容的には押されっぱなしという感じでした。

―昨日の第4局は会心譜でした。

屋敷 随分うまく指せたので、自分でもびっくりしています。

―三浦さんと対戦してみた印象は。

屋敷 序・中盤でうまく工夫してくるので、指していて新鮮味を感じました。

―初めての防衛戦で森下さんの挑戦を受けた時とは逆に、年下のタイトル保持者に挑むという点はどうでしたか。

屋敷 特に意識しなかったんですが、三浦君はかなり硬くなっていた感じがしました。

―研究熱心な三浦さんに対して、屋敷さんはあまり勉強していないという記事がありましたが。

屋敷 実際に勉強してないですから(笑)。何とも思ってないです。

―研究会には参加していますか。

屋敷 月1回、森下八段のところでやっているだけです。

―研究会の数を減らした理由は。

屋敷 特にないです。今も誘われたからやってるだけで。こんなこと言ったら、怒られちゃいますかね(笑)。

―研究会以外にはどんな勉強を。

屋敷 本当に何もやってないので。

―ということは、才能で指しているということですか。

屋敷 いやいや、才能はないんですけど(笑)。感覚ですかね。

―もう少し具体的に言うと。

屋敷 何と言ったらいいのか、わからないですけどね。

―忍者流と呼ばれることについては。

屋敷 あまりうれしくないですね。僕は本格派だと思ってるんですが、誰もそう思わないみたいです(笑)。

―自分の棋風は。

屋敷 あまり考えたことはないですけど、結構手厚いんじゃないかと。いや、よく分からないですよ、自分ではなかなか(笑)。

―6年ぶりの復位ですが、最初に棋聖をとった時と比べて、だいぶ強くなったと思いますか。

屋敷 そうですね。強くなったと思いますけど。昔の将棋は本当にひどいですよ、今見るとめまいがするぐらい(笑)。よくあんな将棋を指していたと思います。まあ、今も相当弱いんですが。

―昨年の全日本プロ優勝、今年のNHK杯準優勝、そして今回のタイトル奪取と復調ぶりが目立ちますが、何かきっかけがあったんですか。

屋敷 特にないんです。自分でも特に変わったつもりはないですしね。

―屋敷さんの競艇好きは有名な話ですが、いつ頃から。

屋敷 3、4年くらい前からです。たまたまテレビで見て、面白そうだからと行ったのがきっかけでした。

―競艇を見に行くことが、将棋にプラスの影響を及ぼしていますか。

屋敷 これは誰も信じてくれないんですが(笑)、結構いい方向に働いていると思います。家に閉じこもりがちで、あまり運動もしないので、たまに外に出て競艇を見るぐらいはいいんじゃないかと。

―勝負勘を養うというよりは、気分転換にということですか。

屋敷 そちらの方が大きいですね。

―この道後温泉の対局は今回が4局目ですが、温泉に入るのもかなり好きみたいですね。

屋敷 入りすぎて疲れました(笑)。タイトル戦の前の日は酒を飲まないので、どこに行っても風呂ばかりです。

―以前はだいぶ飲んでいたとか。

屋敷 もうやめることにしました。昔、二日酔いでやってひどい目に遭ったことがありまして、それ以来自粛するようにしてます。

―今回の五番勝負では帰りに別行動をとっているそうですが、どこかに寄って帰るのですか。

屋敷 真っすぐ帰るのがもったいないような気がして。

―今日は京都に行くそうですね。

屋敷 京都とか大阪の方に行こうかなと思ってます。何をするかは全然考えてないんですけど。

―昨日の終局後インタビューで、今後の目標を聞かれて、目標はあまり立てない、と答えていました。

屋敷 一応、何勝するとか、それくらいで。例えばあるタイトルを取るとか、そういうことは考えてないです。

―何勝というと。

屋敷 年間30~40勝くらいは。それぐらい勝っていけば、自然にタイトル戦などに出られそうですから。

―7年前、18歳で棋聖になった時、本誌の取材で、屋敷伸之を客観的にながめたら、という質問に対して、凄い奴だと思う、と答えていたのが印象的でした。今はどうですか。

屋敷 大したことないんじゃないですか(笑)。そんなに凄いとは思わないですよ。まあ、変な意味で凄いかもしれないですけど(笑)。

―最後に、一夜明けてのタイトル返り咲きの感想を聞かせて下さい。

屋敷 やっぱり大変なことになっちゃったなあ、という気持ちが強いですね。うれしいことはうれしいんですが。

―昨日も言っていた、棋聖として恥ずかしくない将棋を、ということですか。

屋敷 ふだん恥ずかしいことばかりしてますから(笑)。せめて将棋を指す時くらいは。タイトルを取ってから負け出すと、またいろいろ書かれちゃいますから、そうならないようにしたいですね(笑)。

yashikimiura

将棋世界1997年9月号掲載の第1局の時の写真の一部。撮影は中野英伴さん。

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屋敷伸之棋聖(当時)は酒について、「もうやめることにしました。昔、二日酔いでやってひどい目に遭ったことがありまして、それ以来自粛するようにしてます」と答えているが、NHK将棋講座2013年2月号の屋敷九段のエッセイによると、酒を本当にやめたのはこのインタビューから13年後の2010年のこと。

もうやめることにしました、自粛するようにしてます、などいかにも酒飲みの言い訳っぽくて、微笑ましい。

「昔、二日酔いでやってひどい目に遭った」というのは、団鬼六さんのエッセイに書かれている出来事かもしれない。

人懐っこい屋敷伸之棋聖(当時)