将棋世界1980年6月号、「自在流人生の内藤九段に聞く」より。
この本(随筆集『自在流人生』)のなかから記者がオヤと思った一節を抜いてみよう。「秒読みの対策は」という項である。本来なら人に知らせたくない思考法のはずだ。
≪1分将棋(テレビの場合は30秒)になると、独特の緊迫した空気につつまれる。
駒を持つ手がブルブルふるえる人もあり、とても横で観戦などしておられるものではない。
いささか「軍の機密」になるが、私の秒読みどきの戦い方を披露しておくと、まず直感で浮かんだ一番よさそうな手を除外し、二番目によいと見た手(いわば次善手らしき手)を読み進める。読んでみてそれで味方が有利ならその手を指し、不利のようなら何も読まず(読む時間がない)先に浮かんだ最善手らしき手を指すのである。
最善手と見た手が、読んでみると、そうでないことがわかり、そこへ56、57、58という秒読みがきて代わりに指す手が見当らず、あわてふためいた経験から、こういう読み方を工夫した。≫
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「なるほど、こういう方法があるのか」と、新鮮な驚きを感じることができる内藤國雄九段の秘伝だ。
ひと目、長手数の詰みがありそうだが、その手は掘り下げず、次善手らしき必至をかける手順を読む。自玉が詰まないことが確認できたら次善手らしき手を指す、
というような具合なのだろう。
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しかし、自分を振り返って考えてみた場合、ぱっと思い浮かんだ手は良いとして、次善手は何かな、と考えているうちに時間が切れそうである。
そもそも私は秒読みに非常に弱いので、内藤流の秘伝を実戦で活かせそうにもない。
とはいえ、一度試してみたくなるような読み方だ。
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