「あの藤井君がこんなに立派になるなんて・・・」

将棋世界2000年4月号グラビア、第12期竜王就位式『21世紀も竜王で…』より。

 藤井猛竜王の就位式が1月24日、東京・丸の内のパレスホテルで行われた。式には関係者ら約200人が出席した。

 藤井竜王には竜王推挙状の他、秩父宮さま寄贈の竜王杯と優勝賞金3,200万円が贈られた。

 こころなしか、落ち着きがなく見えたのは、中学時代の恩師・中村千恵子さんが来賓で出席していたからだ。

「藤井君は、中学の頃からあまり人前でしゃべるのが得意ではなく、休みになると家に閉じこもっては一日中”一人将棋”をしていました。心配になって『そんなに将棋が好きなの?』と聞いてみると『はい、好きです!』と元気な声で答えた顔が印象に残っています。あの藤井君がこんなに立派になるなんて…」

 中学時代のことを暴露され、思い出が甦ったのか大照れの藤井竜王だったが、

「今年は2000年で、30歳になる節目の年。竜王として迎えることができ、自信につながりました。21世紀(来年)も竜王として迎えたい」と力強い謝辞を述べ、逞しく成長した姿を恩師に見せた。

藤井

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藤井猛竜王(当時)が鈴木大介六段(当時)の挑戦を受け、4勝1敗で竜王位防衛を果たした時の就位式。

相振り飛車戦が予想された七番勝負だったが、藤井竜王は全局、居飛車で鈴木六段の振り飛車に対抗した。

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小学校の恩師が来賓なら、どのような話をされても、「まあ、子供の頃のことだから」と笑って誤魔化せるが、中学の恩師が来賓だと、少しドキドキするかもしれない。

お目出度い席、中村先生も大いに喜んだことだろう。

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よくよく考えると、近所に将棋の相手や道場がなくて、将棋が大好きだったら、昔は一人将棋にならざるを得なかったと思う。

将棋世界や近代将棋や実戦集を見て気に入った棋譜を何度も並べたり、自分で研究をしたり。

中学生の頃は、私も家では一人将棋がほとんどだった。

『大野の振り飛車』と『升田式石田流』が友達というか師匠だった。

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藤井猛四段(当時)「一人将棋でつかんだ将棋観」