将棋世界2003年9月号、鈴木大介八段の「一手啓上」より。
最近ふと、過去に自分の残した棋譜を並べ返してみようかと思い立ち、机の中のファイルを取り出してみた。
こう見えても私は、意外にも棋譜だけは、研修会の頃から奨励会までほとんど残しているのである。
研修会から奨励会の頃の棋譜。内容は自分でも笑ってしまうような、お粗末なものばかりだが、備考の所に、自分なりの将棋に対する考えや、対戦相手の特長を書いてあるのが懐かしく、また面白い。例えば藤井九段の研修会B2当時のことは”よく考える””相振り”。奨励会4級当時の三浦八段”攻めが強い””穴熊”等。主に棋風と得意形を書いているつもりなのだろうが、今ならもっと違うことを書くだろう。とにかく備考の所は、自分が一番大切に思っていた部分で、”勝つ”為の必死さが滲み出ている。
棋士になってからの棋譜は、最近また、すべて揃えて整理した所。備考の欄の空白は、必要が無くなったのか、はたまた、必死さが失われてしまったのだろうか…。とにかく今後は、研究用と保存用の2つに分けて、片方には、研究手順、その時の考え方などを細かく書こうと思う。
10年後、私が今の自分の棋譜を見た時にどんなことを感じるのだろうか。
棋譜は棋士にとっての宝物。そして唯一、棋界に残せる足跡だろうと私は信じている。
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豪放磊落な鈴木大介九段が、研修会以来の棋譜をファイリングしているとは、たしかにすぐには想像ができない。
豪放さと緻密さ、このような両面を持っていることが、鈴木大介九段の魅力にもつながっているのだと思う。
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藤井猛少年:よく考える、相振り
三浦弘行4級:攻めが強い、穴熊
棋風と得意形をメモしておくというのも、なかなかできることではない。
リアルタイムでも役立つが、なによりも、ずっと後年の良い思い出になることが確実な素材だ。
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棋士にとっての棋譜は、作曲家にとっての楽譜と同じ位置付けだと言えるだろう。
観戦記者やネット中継記者が演奏家。
ネット中継がライブ演奏、観戦記がスタジオでレコーディングされたCD。
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→「中学生当時の三浦君は、口はへらぬし、ガサゴソ動きまわるしの腕白小僧で、およそ将棋が強くなりそうには見えなかった」
→「最も実戦の数が少なくて奨励会に入った」棋士と「最も実戦の数をこなして奨励会に入った」棋士