昨日の続き。
将棋世界2005年8月号、鈴木宏彦さんの第76期棋聖戦五番勝負「佐藤康光、羽生善治インタビュー 五番勝負を前に語る」より。
―第1局を控えての心境は。
佐藤 十分に、少しずつ準備を重ねてきました。
羽生 挑戦が決まってから忙しくて、あっという間でした。
―相手の羽生さん(佐藤さん)の将棋をどう見てますか。
佐藤 気力の充実を感じる。棋譜を見ていても、しんどい将棋をずっと指し続けていますから。
羽生 緻密。他の棋士が考えないところまで読んでいる。序盤から工夫がある。
―お互いにプライベートで会ったり、話したりする機会はありますか。
佐藤 プライベートで会うことはありません。電話もありません。
羽生 全くありません。
―対羽生(佐藤)戦で最も印象に残っている将棋は?
佐藤 平成14年の第51期王将戦第1局。羽生さんの居飛車穴熊に香を2本並べて端攻めした将棋(1図)。この将棋のことは今でもファンの人からあれこれ言われる。
羽生 平成6年の第7期竜王戦第6局。最初に六冠王になった時の将棋。際どい局面が続いたが、2図の先手玉に詰みがないことを読み切って、ようやく勝ったと思った。
―では、対羽生(佐藤)で相手に指されて最も印象に残っている一手は?
佐藤 平成15年の第52期王将戦第4局。相穴熊の序盤で先手の羽生さんがわざと1手損したんです。ずっとありがたいと思っていたけど、3図になってはたと気がついた。この局面、先手の右金が5九にいれば、後手が優勢なんです。
図から△2五歩▲2四歩△同角▲3一飛成△6八角成▲同金右△2三飛▲3二竜△3三飛という手順で。ところが、先手の金が4九にいるので最後の△3三飛に▲2一竜と桂を取られて、後手は3九に飛車を成ることができない。羽生さんは4九の金を動かしたくなくてわざと手損したんですよ。すごいことを考えると思った。
羽生 平成13年第60期A級順位戦終盤の4図で▲7三銀と打たれた手ですね。
羽生 先手は残り4分、後手残り5分。後手玉に何か寄せがありそうな局面で入玉狙いに来られたのにはびっくりした。普通、ここで銀は打てない。
(つづく)
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二人が同じ場にいるような構成になっているが、実際には鈴木宏彦さんがそれぞれ電話インタビューした内容を質問ごとに回答を並べ直したもの。
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若い頃は一緒に旅行などへ行ったとしても、お互いがトップ棋士になると、この時代、やはりプライベートでは交流がなかったことがわかる。
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佐藤康光棋聖(当時)が対羽生戦で最も印象に残っている将棋
羽生善治四冠(当時)が対佐藤戦で最も印象に残っている将棋
→羽生善治六冠(当時)「相矢倉の攻め合いというのは将棋の醍醐味の一つで、こういう将棋が指せるようになると今より二倍は将棋が面白くなるはずだ」
と、本人にとって最も印象に残っている将棋は、このブログでも過去に取り上げているが、「対羽生(佐藤)戦で相手に指されて最も印象に残っている一手」が指された対局については取り上げていないようだ。
相手に指されて印象に残る一手、とはプロ好みの渋い手になる傾向があるのかもしれない。