羽生善治少年も参加した全国道場対抗戦

近代将棋1982年11月号、中野隆義さんの「第8回全国道場対抗戦 御徒町Aチームが優勝」より。

 9月12日、東京、千駄ヶ谷の将棋会館にて

表記大会が催された。おりあしく、当日は台風18号上陸のニュースが伝わっていたが、嵐などはなんのその、参加チーム数は60と、史上最高を数えた。

 1回戦から1チーム3名、2勝したチームが勝ち上がっていく一発勝負のトーナメント戦。持時間は各45分で、それを使い切ると即負けという厳しいルールとあってか、会場には終始緊迫した空気が漂よっていた。

 話題を呼んだチームをいくつかご紹介すると。まず、日暮里Aチーム=小池重明・内田昭吉・金子タカシの100万円トリオ。3人ともアマチュアのビッグタイトルである読売日本一戦の覇者というのだからすごい。また、御徒町Bチーム=永井嘉・鈴木英春・加部康晴の3人も元奨励会三・二段という豪華メンバーだ。この他、中村千尋(池尻A)、竹内俊男(渋谷A)、大木和博(御徒町A)、工藤信之(秋葉原A)、滝源太(蒲田)、立石勝巳(小岩)、小滝元晴(三桂A)の諸氏を大将とする超ド級クラスのチームがメジロ押し。アマ棋界をリードする強豪はほとんど本会場に集まったかの感があった。

 どのチームを見ても優勝候補という感じでアマ名人を擁するチームが破れるくらいでは誰も驚かない。激戦の中、準決勝に駒を進めたのは、御徒町Aチーム=大木和博・橋本喜晴・横山公望、八王子チーム=成川正一・甘利優・羽生善治、秋葉原チーム=工藤信之・白井康彦・櫛田陽一の3チームに例の御徒町Bチーム。ここまで来れば優勝はもう目の前と、互いにハッパをかけあう姿がそこここに見られた。

 決勝戦では、ここまで全勝と快調に飛ばしてきた御徒町Aチームの大木・橋本の両氏が好調を持続。準決勝で朋友の御徒町Bチームを破った秋葉原チームに仇うちを果たし、2対1の接戦の末、見事に優勝を飾り、賞状・優勝旗と明4日に行われる奨励会との対抗戦のキップを手中にした。

 御徒町Aチームと奨励会員との対抗戦は、4日午後2時より、佐藤義則六段立合いのもとに将棋会館「歩月」の間にて行われた。

(中略)

 伝え聞いたところによると、アマ側は、もしも負けたらボウズになる気構えでこの対抗戦に臨んだとのこと。なお、優勝した御徒町Aチームの横山氏が仕事の関係でどうしても都合がつかず、代役として御徒町Bチームの加部康晴氏に登場願った。さて、決戦の結果は………

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百鬼夜行のような当時の個性豊かで強烈なアマ強豪の面々が出場した全国道場対抗戦。

その中に、ポツンと小学生の羽生善治少年がいるのがまた凄い。

奨励会試験を受ける直前の頃になる。

この、世にも恐ろしい強豪揃いの中で八王子チームが準決勝まで勝ち進んだのは、やはり羽生少年の力が大きかったのだと思う。

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奨励会との対抗戦の結果は、

小林宏二段-大木和博アマ六段は大木アマ六段の勝ち。

森下卓三段-橋本喜晴アマ五段は持将棋。

伊藤能二段-加部康晴朝日アマ名人は加部アマ名人の勝ち。

という、アマ側の圧倒的な勝利。

ものすごい勢いとパワーのアマ強豪陣であったことがわかる。

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昨日は天童市で行われた「大山康晴十五世名人杯争奪将棋大会(兼アマ王将戦南東北予選)」「市民将棋大会」の見学に行ってきた。

審判長は木村一基九段、副審判長が本田小百合女流三段。

会場には仙台から加部康晴さん、金沢から鈴木英春さんも来ている。

上記全国道場対抗戦で同じ御徒町Bチームだった鈴木英春さんと加部康晴さんは、奨励会時代、”奨励会の主”と呼ばれていた二人。

加部さんは教え子の小学生たちを激励に(加部道場の小学生が小学生王将の部で、優勝、3位、7位という好成績)、鈴木さんは大会出場。

また、加部さんの弟子にあたる加藤結李愛女流2級(高校1年)、鈴木さんの弟子の野原未蘭さん(中学3年:女流アマ名人・中学生名人)も会場に来ており、加部-加藤、鈴木-野原の師弟がそれぞれ揃った形。

師匠同士がもともと仲がよいので、弟子同士もとても仲がよい。

プロを目指しながら年齢制限のため道半ばでプロを断念しなければならなかった鈴木さんと加部さん、それぞれの教え子たちが棋士、女流棋士、奨励会員に育っているわけで、まさに感動的な姿だと思う。

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大山康晴十五世名人杯争奪将棋大会は、決勝が遠藤正樹アマ-小泉卓也アマの戦いとなり、遠藤さんが必勝の局面、玉の逃げ方を間違えて逆転、小泉さんの優勝となった。

決勝戦では木村一基九段と本田小百合女流三段のよる大盤解説が行われ、非常にわかりやすく、面白く、さすが木村一基九段と唸りたくなるような名解説だった。