華麗なだけじゃあ将棋は勝てん

湯川博士さんの「なぜか将棋人生」の「華麗なだけじゃあ将棋は勝てん」より、1985年当時の内藤國雄九段へのインタビュー。

内藤九段が率直に本音で答える。

大山十五世名人の時と同様、よくここまで聞き出せたと思う。

(湯川博士さんのご厚意により、インタビュー部分のほとんどを掲載させていただきます)

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―中原、加藤、谷川が名人で、なぜ、内藤、米長は名人ではないのですか。

「それは、ちょっと自分の口からはいいにくいよねェ…ただ、私は名人は大きなタイトルやけど、特別なタイトルとは見ていない。私の方からすれば、それでは加藤さんは王位や棋聖をなぜ取っていないのですかとも言える。と言って、私もまだまだ名人を諦めたわけではありませんから(笑)」

―ファンから見て、面白い将棋と、面白くないけどとにかく勝つ将棋があるんですが、どう思いますか。

「まあ、現在のところは、相撲や野球と違って観客を集める必要性があまりないとも言える。だから勝つことに全力をあげるべきでしょうね。それに将棋が面白いとか面白くないとかが分かる人は少ない。ほとんどの人が”星”を見るだけ。棋譜を並べてくれる人の中でも、将棋の面白みが分かる人は、また少なくなるのだから、結局、勝ち星を気にする指し方になるんでしょう」

―内藤華麗流なんていわれてますけど。

「それは新聞の見出しでネ。華麗なだけじゃ勝てませんよ、それは」

―なんか、最近は若手でも同じような将棋が多いような気がするんですけど。

「研究会なんかやると同じような将棋になりますね。一人が槍(香車)上がったら皆上がるとか(笑)。飛車先の歩ゥ突かんと皆真似するようなことはあるね」

―神戸組は割に変わった将棋が多いようですね。森安さんとか神吉さんとか。

「そう、神戸組は、個性あるでしょ。私ンとこは研究会やらん主義です。神戸組というけどときどき集まってお酒飲んで騒ぐだけの、仲良し組みたいなもん。そやから皆、勝手に自分の将棋指してる。森安、淡路は久しぶりに坂田三吉の流れをくむ<関西流>の将棋です。しかし、二人を比べると、淡路はカタイ。森安はヤーラカイ。将棋はしつこいけど人間はおもしろい。

そういえばこの間『将棋ジャーナル』の座談会で、棋士のことをいろいろと好き勝手に言っていたけど、ああいうのは、なかなか面白いですね」

―あれでもずいぶん直したんです。

「フフフ。野球なんかムチャクチャ書くけれど、将棋は書けんね。将棋指しは百分の一でも悪口だと駄目なんですね。いつだったか誰だったかが、『努力が足らんという書き方はイカン』と言ってネ。ボクなんかあれ本音とは思えんね。だって将棋指しなんだから『才能がない』言われた方がよっぽど腹立つ思うけどな。ま、棋士は頭下げることもないし、書かれることになれてないしネ」

(中略)

―この間、将棋記者会で「新聞に一年間棋譜が一度も載らない人がいる。我々新聞社はそういう人の分も払わないといけないのか」という意見が出ましてね。

「減らすというよりも、たとえば契約金が上がった時でいいんだけど、その時に一律に給料上げんと、プールしておく。そして掲載料という形で、載った人にやったらいい。まあ契約金いうのは、もともと掲載料には違いないんやけど、まあプラスしてやる。これなら問題ない。

ボクの場合、載らない将棋というのはごく少ないけど、たまに載らない将棋指すと、コレ楽ですね(笑)、簡単にいうと遅刻したっていいわけや」

―あっ、7六歩の下に時間が入らないから。

「そう、ふつう、六時間もあるんだから、ちょっとくらい遅刻したって秒読みにはならん。載るやつは棋譜に書かれるからね。それと、丸勝ちの将棋を負けた時なんか、ほんというとアホらしくて感想戦なんかやってられんもんです。感想なんは放って飲みに行きたいんですよ。でも載るとなれば記者もいるし、辛くともやるわけです」

―掲載するとしないんじゃ、ずいぶん違うんですね。

「それとネ『人気』いうこともあるんですよ」

―人気?

「人に好かれるということですネ。たとえば、同じ棋力の者がおったら、記者に好かれてる人の方が『人気』があって、ようけ載るわけです。これは媚びるちゅうこととは違いますよ。人間は、人に好かれるかどうか、皆気にして生きてるわけでね、将棋指しばっかり威張っとっていいわけないんでネ。やはり好かれよう思ったら自然に腰も低ゥなるし、頭のひとつも下げるようになる。そういう意味からも、掲載料つけたらいいと思うんです」

―感想戦の話が出ましたけど、タイトル戦のも負けた時は実は放りたいのをジッと我慢しているんですか。

「いや、タイトル戦は違う。あれは相手も強いし、今後のために納得いくまでやって、ためになる。中原さんなんか、探究心が強いというか、実に熱心やねェ。感心しますね。ボクなんか回りが気になる性質でしてね、記者が腹へらしとるんやないか、酒飲みたいんと違うかと。ま、自分自身も早う忘れたい方だし、あまり長いのはしませんね」

(つづく)