「おゆき」の時代

昨日に続いて、湯川博士さんの「なぜか将棋人生」の「華麗なだけじゃあ将棋は勝てん」より、1985年当時の内藤國雄九段へのインタビュー。

「おゆき」の時代。

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―内藤さんといえば「おゆき」ですが、あれで将棋を広めた功績が大という人と、将棋指しが歌にうつつ抜かしてという人といろいろな意見が出ましたけど、ご自身はどう思っていましたか。

「あの頃は忙しくて無我夢中でね。とにかく…こういっちゃなんですけど、ボクは将棋世界も近代将棋も、なんにも読んでなかったんですよ」

―えっ、読んでない。

「フフフ。将棋界に興味なかったし。だから誰が何を書いてたか言っていたか、わかんないんですよ」

―読んでないんじゃ、思いようがないですねェ。

「将棋も開店休業でね。ホントは将棋休んでやればよかったんですが、将棋界はヘンな所で、将棋休むなんてとんでもないと、ゴチャゴチャ言う人もいてね。

ボクとしては将棋に気ィがないのに指すということは、将棋に対して悪いと思ってましたネ。だからあんな状態で指すことの方が気が引けました」

―しかし将棋の好きな人は歌の世界なんか知らないわけで将棋を大切にしないで歌ばっかり歌っていて、という気持はあるでしょ。

「誰かにこう言われた。『あんたは将棋よりも歌で知られて情けなくないのか』と。しかしコレ当り前なんですよ。三十六歳でレコードを入れたんですが、将棋は十九歳から三十六歳まで多くの棋譜が載りました。しかし『おゆき』の五年間の全国の有線放送やら、テレビ、ラジオ、新聞雑誌の回数、出演度を考えたら、将棋の十七年間合わせてもまったく問題にならない。だから歌で知られるのは当り前なんです」

―規模が全然違う。

「そう。動くお金から、スタッフ、組織力すべてヒトケタ違いますネ。なにしろステージひとつやるのに、何十人も楽団呼んで、音響、演出、劇場関係者、宣伝、その他大勢の人が動く。レコード一枚つくるんだって、レコード会社の人が何人もつきっきりでネ。将棋界とはかなり違いますネ」

―芸能界っていうのはいかがだったですか。

「ボクが将棋放かして五年間も日本中走り回っていたのは、三つ理由があるんです。ボク自身ちょっとのめり込み過ぎの感があったくらいなんですけどネ。その一はネ、自分が好きやいうこと。その二は芸能界入ってみて、いいかげんな所じゃないことがわかりましたね。とにかく熱心。レコード売り出すためにレコード会社から宣伝マンから皆どんな恥ずかしいこともやる。大学出た連中がハッピ着てネ。ボクも田舎のレコード店の親父にお酌してまわったりね。上座にばかり座っていたのが、地方回りなんかじゃ下座ですよ。床の間は親父さんですよ」

―そこまでやるんですか。

「たとえば、飛行機で地方局まで行って、トークして最後に『おゆき』を一回かけてくれたのはいいけど宣伝したからギャラただとかね。北海道までレコードかけに行ったりとか。でも、回りのスタッフがとにかく熱心なんで、引き込まれました。だから『歌なんか遊びでやってるんだ』という態度は見せられんようになってきたわけです。歌に撤したんです」

―それだけ熱心だと…

「それから三つ目は、将棋の宣伝になる絶好のチャンスということ。だから必ず羽織ハカマで出るようにしましたね。あの民放テレビなんかで、将棋のシーンというと折り畳み板でグチャグチャやっとるのが嫌です。これはイメージ変えるいいチャンスやと」

―でもなにも田舎にまで行って頭さげてという気はなかったですか。

「それ言われたことあるんですよ。『内藤さんそんなことまでして情けなくないか』とネ。でも私は腹立てない。なぜならいつでもやめれるという余裕があるから。

もし歌一本で、一生これで食べなければいけないとなると違うでしょうけど。実際はひどい客がいましてね。余裕がなければ、マイク放っていたかもしれませんねェ」

―歌をやって良かったですか。

「交際範囲広くなったですね。それまで将棋関係の人ばかりでネ。つきあてみて、お金ある人っていうのはまず将棋に関心ないことが分かりました。そういう人というのは海外旅行とか、ゴルフとかテニスとかね、将棋に感心ないんですね。だから将棋のプロの存在をまず知らないですね。これは我々が驚くほど知らない。だからボクがプロの存在を知らしめたと思ってます。

この間、中平さん(神戸新聞記者)が谷川名人をバーで紹介したら、『どこの会社ですか』とか『どこの大学ですか』って聞かれて往生したという。アマ名人とか学生名人とかの感覚なんですね。谷川君なんてあれだけ日本中のマスコミにのっているのにネ」

―まだそういう感じなんですね。

「外から見ると、いかに将棋が関心を持たれてないかということが、イヤッというほどよくわかる」

(つづく)

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