新婚さんいらっしゃい夫婦ペア将棋

もう少しするとゴールデンウィーク。

13年前のゴールデンウィーク、名古屋で大きな将棋まつりがあった。

それに出演した中井広恵女流六段は…

近代将棋1997年7月号、中井広恵女流五段(当時)「棋士たちのトレンディドラマ」より。

(太字が中井広恵女流六段の文章)

ゴールデンウィークは、各地でいろいろなイベントが行われた。

私は、5月の4日、5日と名古屋の名鉄百貨店で開催された将棋まつりに呼んでいただいた。

羽生5冠王をはじめ、多数の棋士が出演したが、その他にも、特別ゲストとして、”ふたりっ子”の岩崎ひろみさん、キダタローさん、囲碁の吉田美香本因坊、オペラ界の錦織健さん、マジシャンの小林恵子さん、桂三枝さんという豪華な顔ぶれ。

初めてプログラム表を見た時、驚いた。今までの将棋まつりの内容とはちょっと違っているし、一つ一つの対局にサブタイトルが付いているのだ。

例えば、碓井初段対矢内二段の、

”プリンセス対局、私のほうが強いわ”

とか、三浦棋聖対郷田六段の

”棋界の武蔵登場、巌流島の決戦”

とか。

 

私の出番は……と後ろの方に目をやると、「将棋タイムトライアスロン」、「新婚さんいらっしゃい夫婦ペア将棋」なんて書いてあるではないか。

一瞬頭がクラクラしてきた。

タイムトライアスロンというのは、ご存知の方もいらっしゃるだろうが、以前将棋マガジンの企画で、佐藤(康光)八段、森内八段他若手棋士やアマチュアの方が、詰将棋や次の一手を解いてタイムを競ったもの。

私は、その時に出場を依頼されたが、丁重にお断りさせていただいたのに、何故ここでしかも大勢のお客さんの前でやらなきゃならないの。

そんな話、聞いてないよ。(当時流行っていたダチョウ倶楽部のネタ)

出場者は、深浦五段、飯塚五段、矢倉四段と私。(結果は深浦五段が優勝)

(中略)

一問もできなかったらどうしようかと思っていたが、とりあえずホッとした。しかし、まだまだ気が重い企画が残っている。結婚八年目の私たちのどこが新婚なんだ。

「この番組は、必ず夫婦で手をつないで登場していただくことになってます」

桂三枝さんと高橋和初段が説明する。そう言われたら、手ぶらで行くわけにはいかない。二人で舞台に出て行くと、お客さん達が私達の手に視線を集め、ちゃんとつないでいるのを確認して大喝采。

 

三枝さんの口撃はなかなか手厳しく、馴れ初めから挙句の果てファーストキスの場所まで追求され、主人の額からは汗がタラタラ。お客さん達は笑いっぱなし。

何で私達がこんな目に合わなきゃならないのか……

やっとの思いで塚田夫妻へバトンタッチ。

「今度は本当の新婚さんですね。あんなのばかり出て来たらどうしようかと思いました」

またまた客席は大爆笑。私達だって、出たくて出たんじゃないやい。

悔しいから、今度は客席にまわって見物することにした。

いやぁ、他人の話というのは何て面白いんだろう。

(中略)

でも、本物の三枝さんと一緒にトークが出来てよかった。

実は、佐藤康光八段もかなり控え室で憂鬱そうだった。というのも、目隠し三面指しという企画があったのだ。

これはかなり神経を使うよう。一面でも”反則をしたらどうしよう”と心配になるのに、それが三面なのだから。

「何で僕ばかりがやらされるんですかねぇ。他の人だって、やればできますよ」

タメ息まじりに話す。

(中略)

これはかなり苦戦を強いられるのでは?と思いきや、あっさりと三連勝。一回の反則もなく無事こなしてしまった。

対局を終えて控え室に戻ってきた佐藤八段に、神吉六段が

「今度は五面でもいけるんとちゃう?」

と言うと、

「もうイヤです。十面まで大丈夫って言ったのは酒の上の席でのことですから」

しかし、私が、

「やっぱり五面は大変だよね」

と言うと、ちょっとカチンときたのか、

「イヤ、正直言って七面までならできると思いますよ。絶対やりませんけどね」

それを聞いてニタッと笑った神吉先生であった。来年のプログラム表が楽しみだ。

 

佐藤八段がふと壁に目をやる。5月2日に行われた、10秒将棋トーナメントの表がはってあった。先崎六段が優勝したようで、何と優勝賞金10万円!? 賞金が出たの?

「何で僕が目隠し三面で、先崎君が10万円なんですか。僕もそっちに出たいですよ」

だいたい、先崎六段の名前はプログラムの出場棋士の中に入ってないではないか。

前日に出演して、次の日にトーナメントで賞金が出ると聞いて「じゃ俺も出ようかな」と飛び入りで参加して賞金を稼いで帰っていったのだ。

(以下略)

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「新婚さんいらっしゃい」は現在も続いている長寿番組。

今の時代の将棋まつりでも、費用面が許されるのなら、やったらとても面白いことではないだろうか。

それにしても、当時の中井広恵女流六段にとって、佐藤康光九段は格好のネタになっていたのだと思う。