上海で行われた、2000年竜王戦第1局、藤井猛竜王-羽生善治五冠戦の時のエピソード。
近代将棋2001年2月号、マジシャン小林恵子さんの「上海将棋観戦旅行」より。
対局の朝、ホテルの窓から、公園で太極拳をやっている人たちやたくさんの自転車が見えます。上海に来たぞーという空気があふれています。
対局が行われている最上階へのエレベータに乗ると、ケーキを持ったホテルの従業員が乗り込んできた。
「このケーキはどこに行くんだろう」と日本語が通じないことをいいことに、仲間と気軽に話す。エレベータのボタンは、最上階しか押されていない。
「一緒の場所だね。対局者用かなー」
「もしかして、加藤一二三さんが来ていて頼んだのかも」
「2つも?」
ジョークのつもりの会話であったが、エレベータの扉が開いて、目の前に立っていたのが、和服姿の加藤一二三九段であった。立会人として来ていることを知らなかったので、こみ上げる笑いをこらえて挨拶する。驚いた。
それから控え室に入った。
「おー来たの?」「こっちで仕事?」「いいえ。竜王戦を追いかけて(笑)」と皆さんから声をかけていただいた。
読売新聞OBの観戦記者(現在は囲碁・将棋チャンネル)の山田史生さんとは初めて顔を合わせた。
もしかしたら、どこかでお会いしているかもしれないが、ご紹介を受けたのは初めてだった。すると誰かが
「久美ちゃん(山田女流三段)のお父さんなんだよ!」
「えっ?本当なんですか?」
一瞬本当だと思ってだまされた。
そんな冗談も飛び出して、初対面なのにいろいろな話ができた。
モニターを通して対局を観戦していると、先ほどのケーキが控え室に運ばれてきた。そして、「対局者がいらないというのでどうぞ」と読売新聞の将棋担当記者の小田尚英さんからすすめられた。
対局者用のケーキを食べられる機会なんてまずありえない。そこで早速、食べようとしたが、これがなんとも奇妙なケーキなのだ。
外見は普通のショートケーキだ。しかし上部にはグレープフルーツの切り身が座っている。そしてスポンジの間にはスイカがサンドされている。なんとも奇妙な味だった。これが上海スタイルのケーキなのかな~?
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この対局が行われたのはホテルオークラ系の花園飯店。
日系資本による名門ホテルなので、的外れなケーキが出たということでもないのだろうが、言われてみればかなり不思議なケーキだ。
まず、グレープフルーツの切り身が乗っているのが、いかにも筋悪だ。
そして、極めつけはスイカ。
スポンジや生クリームとの相性の悪さを想像すると衝撃的だ。
一日目なのに、対局者が見ただけで、食べるのを遠慮してしまうほどのケーキ。
それはそれで、凄いパワーだと思う。
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調べてみると、日本にもスイカケーキがあるようで、食べた人は一様に美味しいと語っている。
写真で見ると、ケーキの中にスイカが入っているのではなく、大きなスイカをスポンジが取り囲んでいるようなイメージ。
→GOURMET~絶品!スイカのケーキ『る・ぴあの』(半蔵門・麹町)
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私が果物の中で唯一好きではないのがスイカ。
食べようと思えば食べられるが、能動的に食べたいとは思わない。
ついついスイカに対しては冷たい態度をとってしまう。