将棋マガジン1986年8月号、中原誠名人自戦解説の「第44期名人戦 急所はここだった」より。
―2年連続、通算11期目の名人位おめでとうございます。月並みな質問ですが、今のお気持ちは。
中原「防衛できて正直ホッとしています。昨年復位したばかりで、すぐまた手放すのでは、かっこ悪いですからね。それにこのところ連続してタイトル戦負けてましたから」
―挑戦者が大山康晴十五世名人だったという点についてはいかがですか。
中原「プレーオフになった時は、米長さんが出てくると思っていただけに驚きました。しかし最近の大山先生の将棋を調べてみて、これは大変な事になったと覚悟しました」
―60歳を過ぎての名人戦という点について、ご自身どうでしょうか。
中原「これはすごい事だと思います。ちょっと年齢差を考えてみたんですが、仮に僕が63歳で名人挑戦者になったとすると、その時の相手は羽生名人なんだね。谷川名人じゃあもうないんだ。
―過去の対戦成績からいって、大山十五世名人はやり易い相手ということはないですか。
中原「過去はあくまで過去。全て一番一番が勝負ですから、そういうことはありません。ただ大山先生の場合には、気持ちの上で向かっていけるのが大きいと思います。他の人の場合は、何か追われている感じになりますから」
(以下略)
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将棋マガジン1986年11月号、中原誠名人の「懸賞 次の一手」より。
羽生先生は強いですね。思っていたよりも強い。この前たまたま、対局室が一緒だったので、じっくりと見させてもらいました。羽生君は中村王将と新人王戦、私は有森五段と十段リーグ。カメラマンが朝からドッと詰めかけて、パチパチと撮っていました。向こうばっかり(笑)。長野の将棋まつりでの谷川-羽生戦を見ましたが、羽生四段がうまく指しているのが印象に残りましたね。強かったです。私も63歳の大山先生に見習って、羽生永世名人に挑戦するところまで、頑張りたいと思います。
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大山康晴十五世名人が63歳の時の名人戦挑戦だった1986年。
将棋マガジン1986年8月号(羽生善治九段がプロになって半年後位に書かれたもの)では羽生名人だったものが、11月号では羽生永世名人になっている。
中原誠十六世名人が63歳の時の名人戦は2011年。
2011年の名人戦は羽生善治名人が森内俊之九段に3勝4敗で敗れているが、たしかに羽生九段は永世名人になっていた。
まさしく「名人は名人を知る」だ。