俳優の石立鉄男さんが亡くなったのは2007年6月1日。享年64歳だった。
将棋が大好きで、晩年は団鬼六さん、カメラマンの弦巻勝さんなどとの交流が深かった。
石立鉄男さんは文学座の出身。1970年のTBS系「おくさまは18歳」の主演で大ブレイクし、日本テレビ系の「パパと呼ばないで」、「雑居時代」、「水もれ甲介」、「気まぐれ天使」、TBS系の「赤いシリーズ」、「夜明けの刑事」、「噂の刑事トミーとマツ」、「スチュワーデス物語」、「少女に何が起ったか」など、数々のドラマで活躍した。
軽妙でコミカルな役からシリアスな医師・刑事役などまで、幅広い芸域を持っていた。
「パパと呼ばないで」の名台詞「おい、チー坊!」は、多くの芸能人に物真似をされている。
その石立鉄男さんが、近代将棋に連載をしていたことがあった。
近代将棋2001年2月号、石立鉄男さんの「石立鉄男の旅立ち紀行 駒師 竹風を訪ねる」より。
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私の趣味は、飲む・打つ・買うの三拍子に、陶器、将棋、大相撲、ゴルフ、そして錦鯉と八つある。どれもゴルフでいうとシングル、将棋でいうと段持ち。すなわち、それくらいまでいくと、その道のプロと対話ができるのである。
私はそのことが好きになる前に、その道のある特定の人間にひかれる。その人を解かろうとする、なんとか話したい……と、その一途でそれを始めるということになるわけである。
(中略)
駒師 竹風さんは新潟の燕市に住む。その手前が長岡。その前が錦鯉のふるさと小千谷だ。小千谷だからよもぎ平に行く途中に錦鯉銀座と呼ばれる街道がある。
(中略)
正確には親子二代の竹風ということになる。みなさんご存知のとおり初代は名匠である。
偉大な父親を持ったため、数多くの息子は悲劇に終わる。常に父親と比較されるから、良くて当たり前、悪ければボロボロにされる。
名匠に対する妬み、七光りに対する妬み、落ちて自分以下になるのを世間は望んでいる。そんな中で生きることを義務づけられている人間は、さぞ屈折しや人だろうなーと思いきや、なんとも明るい。職人というより商人に近い、磊落さと軽さ、それでいて神経の細やかさ。私と歳が近いせいか話も弾み門外不出の駒を見せてくれた。本人曰く「非売品です」。
(中略)
この二人はこれから良い作品をどんどん作り上げるだろうと予感した。
王将と書かれたちとヒン曲がった看板もこの人たちにピッタリだ。
北の地に細々としかもしなやかに生きている「ホンマモン」に会った。
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今回、この文章を取り上げたのは、「妬み、落ちて自分以下になるのを世間は望んでいる」の部分があったため。
抜き身の日本刀のような、あまりにも激烈な表現だ。
石立鉄男さんは芸には厳しいが本当に好人物だったらしい。
芸能界は浮き沈みの激しい世界。石立鉄男さんが芸能界で生きてきて、痛切に感じたことのひとつが言葉として現れたのではないだろうか。
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私は石立鉄男さんを見たことが二度ある。
一度目が大学時代。
「気まぐれ本格派」というドラマの撮影が大学のそばの老舗貸衣装店で行われており、たまたま前を通りかかった時に、石立鉄男さんと木の葉のこさんが貸衣装店の向かいにある喫茶店に入る姿を見たのが最初。
二度目は、プロ棋士や将棋関係者がよく行っていた新宿にあった寿司店で、隣の隣の席に石立鉄男さんが座っていた。
直接お話をしたわけではないが、とても人柄が良さそうな方だった。
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石立鉄男さんが出演するドラマは数多く観たが、個人的に好きなのが、1985年のTBS系「少女に何が起ったか」の刑事役だ。
主演は、人気絶頂の頃の小泉今日子。
毎晩12時になると小泉今日子の前に現れる刑事役の石立鉄男の「この薄汚ねぇシンデレラ」はあまりにも有名な台詞。
私がリスペクトする大映テレビによって制作されたドラマだ。
大映テレビの大映ドラマは、「大げさで感情の起伏の激しい芝居」、「泥沼にはまるようなストーリー展開」が特徴。