藤井猛竜王誕生の一局

藤井猛竜王が誕生した1998年竜王戦第4局は、藤井七段(当時)の指し回しが見事で、昭和の振飛車党の方が見れば、涙が出るような一局だった。

将棋世界1999年1月号、竜王戦第4局 谷川浩司竜王-藤井猛七段戦「藤井、完璧な指し回し」より。

観戦記は佐藤康光名人(当時)。

 第11期竜王戦第4局は挑戦者藤井七段の3連勝、という状況で迎えた。

 全く意外と言って良い展開である。

 藤井七段が相変わらず好調を持続させているということもあるだろうが、それにも増して谷川竜王が明らかに変調である。

 とにかく、内容が悪すぎる。

 第2、3局は得意な終盤戦を迎える前に終局となっている。

 一体どうしたのであろう。

 私としては人の好不調の原因を探る程、余裕はないので全く分からない。

 ただ、マスコミの連敗報道等でかなり過敏になっているのではという気はした。

 一方、藤井七段。

「藤井システム」の精密な研究、経験など序盤から圧倒している感がある。

 さらに感心するのが中盤の正確さだ。

 リードした差の広げ方は棋界一かとも思わせる指しぶりだ。

 大山先生亡き後数年経つ。

 この間、大舞台等で戦われてきた四間飛車は一体何であったのかとも思わせる。

 私も含めてそうだが、これから居飛車側の対策は見ものである。が、打ち破るのはなかなか困難なことという感じだ。数年後どうなっているか楽しみだ。

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出だしは、藤井システム。

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そして、谷川竜王の右四間に対し、藤井七段は三間飛車に。

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右四間はアマチュアにも支持者が多く、かなり厄介な戦法だが、ここからの藤井七段の指し方は、対右四間対策として非常に参考になる。

6筋を狙われているにもかかわらず、飛車を6筋から7筋へ移動するところが大胆。

攻めて来なければ▲7四歩と行くよ、と△6五歩からの攻めを誘っている。

ここから、△6五歩▲同歩△8八角成▲同飛△3三角▲7七角△6五銀▲6六歩△5四銀▲8六歩△3二金上▲8五歩△6四飛。

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途中、▲6六歩に対して△同銀▲同銀△同角▲同角△同飛とすると、▲5五角の王手飛車をくってしまう。

そして、図から68分の長考で▲8四歩。

佐藤名人の観戦記より。

 藤井七段が考え始めた時控え室も仕掛けに気がついたが予想以上に収拾がつかないのには谷川竜王もガク然としたに違いない。

 まだ駒がぶつかっていないのにどうしようもなくなっているのは珍しい。

 運も藤井七段に向いてきたと言える。

 長考後指された▲8四歩が機敏。

 △同飛は▲同飛△同歩▲8二飛で後手、適当な飛の打ち場がない。

 △7九飛は▲8四飛成、△8七飛も▲7八銀で困る。

▲8四歩以下、△同歩▲5六銀△9四歩▲6五歩△同銀▲3三角成△同金右▲5五銀△6一飛▲8四飛

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100人中100人の昭和の振り飛車党が狂喜するような手順。本当に一方的な展開になってしまった。

投了図は下の図。

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佐藤名人の観戦記より。

 16時16分、▲4七銀打を見た谷川竜王が投了。投了図以下は角を逃げても▲5二とがひどく、望みがない。

 藤井新竜王誕生となった。

 それにしてもまたこの圧勝。

 谷川竜王の歯車が全くかみ合わなかったし、盤外からも全く意外な形で竜王戦が終了したが、何より一番驚いているのは藤井本人だろう。初タイトルが竜王位。終了後しばらくして嬉しさがこみ上げてきた事と思う。

 純粋振り飛車党のタイトルホルダーは大山、森安以来。

 振り飛車新時代の到来はファンも待ち望んでいたことだろう。

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絶妙手が出たわけでもないのに、このような大差がつくとは本当に恐ろしい。

「藤井猛竜王誕生の一局」への2件のフィードバック

  1. そう言えばある時期、棋士の書く文章のほとんどが「一段落=一文」になっていたことを思い出しました。句点ごとに改行するのでは段落としての意味がないわけですが、なぜか皆さんそうしていました。

  2. geometさん
    それは気がつきませんでした。
    この記事で引用した文など、たしかに言われてみるとそうですね。

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