近代将棋1998年4月号、故・池崎和樹記さんの「普段着の棋士たち 関西編」より。
棋王戦の南-郷田(挑戦者決定戦)を取材。
この二人、昨年十二月に勝者組での決勝戦で当たって、そのときは南さんが勝っている。その夜、私は郷田さんと本間さんを誘って近くの料理屋へ行った。棋王戦は夕食休憩がないから遅まきながらの夕食だ。
郷田さんは大勝負に負けたというのに、ずいぶん食欲があった。そうして「あー、敗者戦は意味ない。なければいいのに」とつぶやき、二軒目、三件目とハジゴしたのである。私は原稿があったので二軒目で失礼したが、あとで本間さんに聞いたら二人で朝まで飲んだそうだ。
その郷田さんが、敗者復活戦で飯塚五段を破って挑戦者決定戦(二番勝負)に出てきた。そして年明けに東京での第一局を制し、ついに大阪で「最後の決着」をつけることになったのだ。敗者戦も、ちゃんとイミがあるじゃないですか。
結果は皆さんご存知のように、郷田さんが勝って初の棋王挑戦者になった。これで昨年の棋聖戦、王位戦、王座戦での挑決負け(この記録もすごい)は一気にチャラになった。
(以下略)
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郷田真隆九段の1997年頃の酔った時の口癖は「意味ない」だった。
前年に、3つの棋戦での挑戦者決定戦で敗れた郷田六段には忸怩たる思いがあったのだろう。棋王戦には敗者復活戦があるものの、勝者組決勝で勝ちたかった気持ちは痛いほどわかる。
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近代将棋の同じ号の、「棋王戦挑戦インタビュー」より。(「 」内が郷田六段の会話)
-この度は棋王戦挑戦あめでとうございます。
「ありがとうございます」
(中略)
-羽生四冠の将棋にはどんな印象を持っていますか?
「羽生さんとは同期なのでずっと一緒に将棋をやってきた仲間。将棋の波長は合っています。ただ・・・将棋の質が違う」
-具体的にその質とは?
「うーん、突っ込まれると、考えてしまいますが。そう、例えば、Aという局面からBという局面へ指し手が進むとします。私の場合、直線的に狭く指し手を読みます。しかし羽生さんの場合、幅広く指し手を読むと思います」
-過去羽生四冠とタイトル戦では、常にデットヒートをしながらも、残念ながら負けていますが、今回なにか秘策を考えていますか?
「特に。ただ相手としてはやりがいを感じます」
-ズバリ自信の程は?
「・・・私は自分の将棋を盤上に表現したいと、いつも思っています。羽生さんとの強さの比較はできませんが、自分の将棋には自信を持っています」
-一人暮らしを始めたそうですが、現在、恋人は?
「いません(笑)」
(以下略)
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インタビューでは、「昨日はS六段と朝まで飲んでいまして・・・」とも語っている。
この当時であれば、S六段が先崎六段であることは明らかだ。
大阪での飲んでいる時、そして短いインタビューの中、郷田九段らしさがとてもよく出ている。