「離婚歴のある四十男などに、娘はやれないのだが、将棋が強ければ話は別だ」

近代将棋1983年7月号、読者の投稿欄「読者会議」より。

 短期間で将棋が本当に強くなりたいと思う人は、京都伏見の灘蓮照九段の道場へ行ってごらんなさい。奨励会に一番多く弟子を持つ灘先生とその強者の弟子達が、どんな初心者にも決して手を抜くことなく実に真剣に相手をしてくれます。

 私は今の結婚をするとき、彼女の父(アマ四段)から、『離婚歴のある四十男などに、娘はやれないのだが、将棋が強ければ話は別だ。将棋の強い奴に悪者はおらんからのう』と言われ、何としても出来るだけ早く将棋に強くなる必要が生じ、いろいろと研究を開始しました。どなたでもなさるように、まず新聞の将棋欄や詰将棋を切り抜いてスクラップノートに張り、将棋雑誌を購読し、TV将棋を欠かさず見、将棋の本を大量に買いこみ、はたまた通信添削に申し込んだり、出来る範囲のことをやってみましたが、やはり実戦が一番大切なことではないかと悟って道場巡りを始めました。外人旅行の仕事をしている関係で出張が多いので、東京・大阪・京都等各地の道場に暇を見つけては顔を出し、また『近代将棋』誌の初段検定によって、かなり時間はかかりましたが、とにかくも初段の免状を獲得しました。

 そして京都で灘道場の存在を知り、かなりの自信を持って行ってみたのですが、ところがところが、この実力でこの灘道場では、ナント15級の判定でした。「ここでは奨励会の俊英・神崎二段をアマ最高の六段とし、以下、飛車7級差、角5級差、香2級差の厳重な階級別によるリーグ戦が火曜以外の毎日午後行なわれています。つまり私はここの6級に一丁半(飛香)で軽く退治されたのです。ここの6級は信じられないくらい強いですョ。

 12級になると奨励会の若手が二枚落で相手をしてくれます。彼等は全員十代の若さですが、灘先生の厳しいしつけにより非常に礼儀正しく、下手の相手でも年長者の場合にはザブトンは敷きませんし、アマはアグラをかいても良いが、この人達は常に正座です。

 あの米長九段が対局中、記録係の神崎二段の正座の立派な姿勢に驚嘆して、「この男は今に必ずA級八段にはなる」と言ったという話も、もっともです。

 みな十代の若者なのでタバコは吸いませんから、他の道場のようにタバコの嫌いな人が、もうもうとした煙に悩まされる、なんてことはありません。手合割りが細かいので超初心者にも勝つチャンスは十分にあり、昇級規定に達すればドンドン進級できます。

 私は旅行業という仕事の関係で全く残念ながら灘道場に月せいぜい二、三回しか通えませんが、それでも三年で10級になり、当時より確実に角一枚強くなっていることが分かります。ここに毎日通うことの出来る人なら半年も真剣に指し込めば、アマ二・三段(当道場の5、6級)にはすぐになれるのでは、と思います。私より若い人なら尚さらです。

 昨日も、灘先生は、私のヘボ将棋の盤面をチラと見て、

『ホンマはなァ、5二に金上ってから王さん寄るのや。さきに7二に王さん寄ると、4五で仕掛けられたら、いっぺんにツブレテルデェ』とか、

『4四に歩をまず打って、3三に桂成らせて金で食うのが本手やったな。桂で取るのはあかんかったナ」とか声をかけてくださいました。

『駒組が頂点に達したからゆうて、すぐ行かんでもエエンや。もう一つ力をためて、相手の弱点をついたらエエ』

『立派な刀や道具を持っているのに、相手の髪の毛切ったり足切ったりしているから自分の心臓突かれるのや、自分の首が飛んでしもうてから、あ、しまった、あの金は、銀を打つんやった言うて何になる?』

 誰にでも先生は常にこんな調子で教えてくださいます。

 また、灘先生は、趣味で道具には金をかける主義ですので、この道場の将棋盤はすべて本カヤです。従って初心者でも初めから本格的な景高の将棋盤に対するわけで、やはり気合いが入ります。将棋に集中できますから普段より二・三手は多く読めるような気がするから不思議です。その後、私は彼女と結婚することができました。彼女は全然将棋を知りませんが、なにしろ父が四段である関係上、私が将棋に熱中していても少しも文句を言わずに、この極楽トンボの私をよく面倒見てくれます。男には、いい嫁さんを貰うことが、これまた大切だとしみじみ思います。

(中略)

 長男には桂一郎と名をつけ、(このあと、香代子、歩とする予定でしたが、これはそうはいきませんでした)幸せな家庭を築きつつあります。これもみな、将棋と、それからこの道場に巡り会ったお蔭であると思っております。

 大山流四間飛車の達人であった四段の父は昨年暮になくなりましたが、最近私の夢に現われて、『灘道場で本当の初段になるまで頑張れヨ』、とのことですので、たとえ1年に1級ずつでも昇級を目指して10年計画で努力するつもりです。

 ところが、実はここの初段になるには、持って生れた特別の才能が要るようです。

 将来プロになるほどの素質があるならば、小学生でもいきなりなれるが、並みのド頭では。少々努力したところで、何十年たっても絶対なれない、という人もいます。

 皆さんも、ひとつ、ここの初段に挑戦してみませんか。

(千葉県 Yさん)

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灘蓮照九段の「駒組が頂点に達したからゆうて、すぐ行かんでもエエンや。もう一つ力をためて、相手の弱点をついたらエエ」「立派な刀や道具を持っているのに、相手の髪の毛切ったり足切ったりしているから自分の心臓突かれるのや、自分の首が飛んでしもうてから、あ、しまった、あの金は、銀を打つんやった言うて何になる?」は、非常にためになりそうな言葉だ。

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「離婚歴のある四十男などに、娘はやれないのだが、将棋が強ければ話は別だ。将棋の強い奴に悪者はおらんからのう」

神様のようなお父さんだが、きっとYさんの良さを既に認めていて、そのうえで出た発言のようにも思える。

麻雀で言うとYさんにはすでに三翻あり、あと一翻あれば満貫になるので、「満貫になれ」というような感じ。

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