畠田理恵さん「これ、良かったら読んでください」

将棋世界2000年8月号、神吉宏充六段(当時)の「今月の眼 関西」より。

 将棋ファンは至る所にいてくれるものだと思ったことが最近あった。名古屋の居酒屋で、友人と酒を酌み交わしていたら、ふと見ると隣の席に綿引勝彦さんがいるではないか。任天堂64のCMで「か、カワイィ。ピカチュウ!」と叫んでいるあの人と言えばすぐ分かってもらえるだろうか。悪役から人のいいお父さんまでこなす、その名俳優の綿引さんが、席をスクッと立ち上がりこちらにやって来たのだ。な、何か悪いことでもしたかいなと思っていると私に、笑顔で綿引さん「将棋の神吉さんでしょ、いつもテレビで見てますよ。あっそうだ、今度大阪で舞台やるんで遊びに来てくださいよ」と、何とも嬉しいお誘い話であった。

 もちろん後日遊びに伺った。綿引さんは本当に歓迎してくれて、将棋の話では「いやあ、ボクは昔っから将棋の大ファンで、いつもテレビ将棋はビデオに録って観てますよ。そうそう、畠田理恵ちゃんが羽生さんと結婚する前、ボクが将棋好きなのを知って理恵ちゃんが『これ、良かったら読んでください』って将棋の本を数冊持ってきてくれたんですよ。それが羽生先生の本で、後で結婚を聞かされて、ああなるほど!と思いましたよ」とこんなエピソードも。

 それにしても……意外なところにも将棋ファンがいてくれると思ったが、綿引さんに言わせると「舞台やってる人や俳優には一杯いますよ」とのこと。将棋好きな俳優さんだと分かれば皆さんも芝居の見方が変わるかもしれませんねえ。

(以下略)

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畠田理恵さんから、「これ、良かったら読んでください」と本を手渡されたら、誰もが心が溶けてしまうだろう。

本当に、本当にうらやましい。

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綿引勝彦さんは名脇役というか、名前をご存知ではなくとも顔を見れば「あっ、あの人」となるはず。(記事の最後のYoutube映像をご参照ください)

調べてみると、1995年7月の明治座七月公演「付き馬屋おえん -恋の蛍は闇に散る-」で、綿引勝彦さんと畠田理恵さんが共演している。

綿引さんが理恵さんから羽生善治六冠(当時)の著書を手渡されたのも、この公演中かもっと前の稽古中と思われる。

ちなみに羽生六冠・畠田理恵さんの婚約発表が1995年7月28日。婚約発表は、この公演が終わったか、あるいは最終盤のタイミングだったことになる。

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この「付き馬屋おえん」は、テレビ東京系で放送されていた時代劇の劇場版で、主演はどちらも山本陽子さん。

山本陽子さんが演じるのは、吉原の仕出し料理屋の女将。しかしこの仕出し屋の裏稼業は吉原の遊廓でのツケを取り立てる「付き馬屋」。

毎回、遊郭の借金を返さない客(この客が悪逆非道なことをやっている)を、仕出し屋の従業員が殺害するというストーリー。必殺シリーズに似た雰囲気だ。

吉原への金払いの良い悪党もたくさんいると思うのだが、とにかく金払いの悪い悪逆非道なことをやっている悪人が殺しの対象。

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「付き馬」は江戸時代の用語。

遊んでお金を払おうと思ったらお金が足りない。

店の人に「家が近所なので、家まで一緒についてきてくれれば足りない分をお支払いしますよ」と言った時に、一緒に家までついてくる人のことを「付き馬」と呼んだという。

家にお金がない場合はどうなっていたのだろう。

想像するだけでも恐ろしい。

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