大山康晴十五世名人らしくもあり、らしくもない絶妙手△1二飛

近代将棋1982年10月号、大山康晴十五世名人の第21期十段戦挑戦者決定リーグ〔対米長邦雄棋王戦〕自戦記「意表をついた妙手1二飛」より。

 米長さんは予定どおり、▲1一角成と香を取って馬を作り、私は△5七歩成。局面は一気に攻め合いに突入した。

4図以下の指し手
▲5三香△5八と▲同金△5七歩▲5九金△1二飛▲5一香成△1一飛▲6一成香△同飛(5図)

 ここで平凡な▲5七同銀は、△同桂成▲同金△54銀となり、陣型の乱れている米長さんが苦しい。

 米長さんは▲5三香と強烈な勝負手を放ってきた。

 飛角の田楽刺しという厳しい攻めだが、私は△5八とで金を取り、米長さんの▲同金(▲5二香成は△6九と)に△5七歩と一発きかして、▲5九金に△1二飛(途中図)と逃げた。

 いや、逃げたというより、馬取りの逆先というべきで、この一手が米長さんの意表をつく好手だった。

 ▲1二同馬と飛を取れば、△3三角(I図)と手順にさばかれて米長陣は受けが難しい。

 かりに▲7七金は幸便に△8五桂があるし、また▲6六金は△同角▲同歩△7六銀と進まれて、持ち駒が不自由な飛角なので受けようがない。

 米長さんはやむなく▲5一香成と角を取った。まさかここで▲7七馬とは逃げられないし、▲7七馬に対して、△1五角あるいは△6二角とかわされても、せっかく打った▲5三香がムダ駒となる。

 しかし、私は△1一飛と大事な馬を抜き、▲6一成香に△同飛と手順よく自陣を清算して、もうこの将棋に負けはないと思った。

(以下略)

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I図、▲3四飛とでも走ろうものなら、△8八金▲6八玉△7九銀▲6九玉△7七桂▲同桂△同角成ということなのだろう。

恐ろしい△1二飛(途中図)。

大山康晴十五世名人らしくない派手な絶妙手。

しかし、△1二飛に▲5一香成△1一飛▲6一成香△同飛(5図)と本譜の進行で収まると、いかにも大山十五世名人らしく感じられるから不思議だ。

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「もうこの将棋に負けはないと思った」

大山十五世名人がこの言葉を使うと、信頼度というか恐怖度が200%アップするような感じがする。